2020 Fiscal Year Research-status Report
「刑罰の哲学」をめぐる自由と人権―近世イギリス哲学の視座―
Project/Area Number |
20K12787
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
渡邊 裕一 学習院大学, 付置研究所, 助教 (60848969)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 刑罰の目的 / 刑罰正当化論 / 抑止刑論 / 応報刑論 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、ジョン・ロック(John Locke, 1632-1704)の刑罰論を研究した。この研究の成果は、渡邊裕一「ジョン・ロックの刑罰論」『人文』第19号(学習院大学人文科学研究所、2021年3月)として刊行した。 本論文では、ロックの自然権思想に由来する刑罰権を概観するとともに、刑罰の目的として掲げられる抑止刑論と応報刑論の双方を検討した。そのうえで、ロックの刑罰論には抑止刑論と応報刑論の両側面が見られるが、どちらかと言えば抑止刑論を優位に位置づける議論を展開していることを明らかにした。 本論文の意義は、大きく二つあると考える。 第一は、17世紀イギリス哲学において、現に「刑罰の哲学」(刑罰とは何なのか?あるいは刑罰とはいかなるべきなのか?という考察)と呼ぶべき知的探究が行われていたという点である。ロックは、刑罰を国家権力による個人の権利の侵害と捉えている。それゆえ、その合法性や正当性の探求は必然的な課題だったのである。これは哲学史上、個人の権利の不可侵性を基礎とするからこその関心だと言える。 第二は、現代の精緻な刑罰正当化論にも見られる抑止刑論と応報刑論の二側面が、既に当時の著述に認められるという点である。当時のイギリス哲学の営為が、現代の法哲学における刑罰論の基礎を形成していることを伺わせている。それゆえ、イギリス哲学における「刑罰の哲学」を検討することは、同時に現代にも通用する「刑罰の哲学」を論じることと軌を一にしていると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
世界的な新型コロナウィルス感染症の流行により、当初の計画の遂行が困難となっている。具体的には、海外渡航を伴う文献調査や学協会への出席が全く不可能となっている。また、遠隔授業への対応等、学内業務の多寡等も相まって、国内における調査や研究報告に参加する機会もほとんど確保できていないのが現状である。 「研究実績の概要」欄にて、今年度の研究業績として単著論文一編を掲載したが、本件論文の調査自体は2019年度以前に行ったものである。2020年度は新たな課題の調査に着手することがほとんど不可能であった。
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Strategy for Future Research Activity |
所属先大学における遠隔授業の実施も2年目を迎えることから、学内業務は2020年度よりは落ち着くと思われる。この機会に、当初予定していた研究を推進したい。 海外渡航を伴う文献調査や学協会への出席は、しばらくは困難な状況が続くと思われるので、ウェブデータベース、ウェブ会議システム等を活用して、実際に海外に出向かずとも可能な範囲で、調査や研究報告を遂行していきたい。学協会以外の研究交流活動についても、ウェブ会議システム等を活用して対面以外の方法で行う環境も整いつつあるため、自らがホスト役になる形で、従来とは異なる方法での研究交流を積極的に図っていきたい。 国内の大学図書館等の施設は、利用可能な箇所から順次、本件研究の遂行のために活用していきたい。
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Causes of Carryover |
全世界的な新型コロナウィルス感染症の流行により、海外渡航および国内出張による調査や研究報告が事実上不可能となり、旅費を支出することができなかった。 また、大学の業務における遠隔授業対応のため、本件研究に確保できる絶対的な時間の不足があり、史資料の購入や物品の購入等もほとんどできなかった。
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Research Products
(1 results)