2020 Fiscal Year Research-status Report
The Concept of Subjectivity in Enlightened Societies - Reading Kierkegaard from Adorno's Perspective
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20K12788
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
吉田 敬介 学習院大学, 文学部, 助教 (50847720)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | S・A・キルケゴール / Th・W・アドルノ / Ch・テイラー / 内面性 / 主体性 / 啓蒙 / 近代化 / 罪意識 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度は、Th・W・アドルノの批判的解釈を引き継ぎ、社会哲学という観点からS・A・キルケゴールの思想の基本的性格を明らかにすることを試みた。その際にはまず、『哲学的断片への結びとしての非学問的後書』(1843年)などにおけるキルケゴールの内面性論と、『キルケゴール 美的なものの構築』(1933年)などにおけるアドルノの批判的解釈が出発点となった。 令和2年11月にDanish Yearbook of Philosophyに掲載された論文"Kierkegaard lesen, gegen und mit Adorno: Von der objektlosen Innerlichkeit zur Selbstbesinnung durch das Andere"では、アドルノの解釈に従いつつ、キルケゴール思想の両義性を明らかにした。アドルノによれば、キルケゴール思想は、一方では自己閉鎖的な「客体なき内面性」の哲学として、他方では自らのうちなる「非同一的なもの」を洞察する自己省察の思想として、読まれうるのである。 令和2年9月の日本哲学会第79回大会での一般研究発表、および令和3年4月に日本哲学会編『哲学』第72号に掲載された論文「隠された内面性から、外的世界との衝突へ――キルケゴールの「内面性」概念を再解釈する試み」では、Ch・テイラーの議論を参照しつつ、社会の近代化のなかで独自の運動を遂行するものとしてキルケゴールの「内面性」概念を解釈した。すなわち、キルケゴールによって提示されたラディカルな「内面性」概念は、近代化や啓蒙の展開のただなかでいったん外的世界を離れ自己の内面空間に向かい、それでいて内面化の極まりにおいて罪意識とともに自らの非真理性を自己反省し、超越的尺度のもとで自らの限界を認識するような主体の運動の表現として理解されうるのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、研究計画通り、おおむね順調に進展している。近代化や啓蒙のコンテクストからキルケゴール思想の社会哲学的意義を考察するという本研究の課題に関して、令和2年度の取り組みから、とりわけ以下の二点について進展が見られる。 第一に、近代化や啓蒙という観点から見るキルケゴール思想の社会哲学的側面については、既に基本的な論点が明らかにされた。というのも、幾つかの理論的著作の分析・検討を通して、キルケゴール思想が一見そう思われるように歴史や社会と無関係なものではなく、むしろ近代化や啓蒙という外的なプロセスとの関わりの中で構成されており、そのなかで「内面性」概念の独自の運動が遂行・表現されていることが示されたからである。この論点については、日本哲学会大会での研究発表や、Danish Yearbook of Philosophyおよび『哲学』第72号に掲載された論文において、既に一定の成果が発表されている。 また第二に、キルケゴール思想の実践的側面をめぐる論点についても、既に一定の見通しが示されつつある。すなわち、彼が同時代の社会を問題にした幾つかのテクストの分析によって、キルケゴールの議論が単なる内面空間の強調に尽きず、むしろ内面性を拠点とした既存の社会への内在的批判というポテンシャルをもっており、その点でアドルノら批判理論の議論とも共鳴し合うという点も、明らかになりつつある。この論点は、さらなる研究を通してより具体的に検討される必要がある。 なおCovid-19の感染拡大のため、令和2年度に予定していた国外研究機関への訪問は実現しなかった。とはいえオンラインで開催された国内学会(日本哲学会、社会思想史学会など)やドイツ語圏の研究者によるキルケゴール研究会(Kierkegaard-Kolloquium)への参加を通して、本研究に関わる議論について考察を深めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度は、前年度までの成果を引き継ぎ、キルケゴール思想の社会哲学的意義をより具体的・実践的な側面から明らかにしていく。第一には、個人の内面性に強調点をおくキルケゴール思想が、近代化や啓蒙という歴史的・社会的コンテクストにおいて既存の社会への内在的批判として働くのはいかにしてかという点が追及される。また同時に、「既存体制」と衝突する彼のそのような社会批判が、少なくとも部分的にはアドルノらによる批判理論と共鳴するという点が示される。 これらの論点は、令和2年度と同様に、主として文献(キルケゴールの一次文献や関連する二次文献)の分析・検討を通して考察されることになる。とりわけ、キルケゴールの理論的な著作のみならず、同時代の社会や「既存体制」を論じた『文芸批評』ならびに後期の日記記述といったテクストもまた、本研究の考察の対象となる。これらのテクストの分析・検討から、キルケゴールが、個々人を巻き込みその特殊な超越経験を抑圧してしまう啓蒙や近代化のプロセスの問題性を洞察しながら、そこに一種の「修正」を加えるような主体性論を提示していることが明らかになるはずである。 令和2年度に引き続き、本研究の成果は、様々な学会・研究会での研究発表や専門家との議論を通じて洗練されることが期待される。Covid-19の感染状況に鑑みると、令和3年度も学会・研究会への対面での参加は引き続き困難であることが予測されるが、できる限りオンラインで様々な学会・研究会へ参加し、本研究の成果を議論していく。さらにその成果は、研究論文として公の議論に開かれることが期待される。
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Causes of Carryover |
文献の購入が遅れたため。令和2年度に購入できなかった分の文献は、令和3年度に購入予定。
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Research Products
(3 results)