2021 Fiscal Year Research-status Report
The Concept of Subjectivity in Enlightened Societies - Reading Kierkegaard from Adorno's Perspective
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20K12788
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
吉田 敬介 学習院大学, 文学部, 助教 (50847720)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | S・A・キルケゴール / Th・W・アドルノ / 内面性 / 主体性 / 啓蒙 / 近代化 / 自己 / 修正するもの |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度は、昨年度の研究成果を引き継ぎ、S・A・キルケゴール思想の社会哲学的ポテンシャルを、Th・W・アドルノによる批判的解釈を参照しつつ検討することを試みた。その際、一方では、キルケゴールの『死にいたる病』(1849年)等における自己論および『キリスト教の修練』(1850年)・日記等における社会批判が、他方では、アドルノとM・ホルクハイマーの共著『啓蒙の弁証法』(1947年)の啓蒙論が、考察の出発点となった。 令和3年9月に『社会思想史研究』第45号に掲載された論文「『啓蒙の弁証法』から読むキルケゴール――反知性主義か、啓蒙の自己省察か」では、アドルノらによる啓蒙論の視座から、キルケゴール思想が示す社会哲学的な問題性とポテンシャルについて考察した。とりわけ、キルケゴールが、社会の合理化に対してある種の反知性主義の傾向を示しつつ、啓蒙理性の自己神格化を戒め自己省察をもたらす議論を展開していることを明らかにした。 また令和3年7月のキェルケゴール協会第21回学術大会での研究報告、および令和4年3月に刊行された陶久明日香/長綱啓典/渡辺和典(編)『モナドから現存在へ――酒井 潔 教授退職記念献呈論集』に収録された論文「自我の哲学史からみるキルケゴールの「自己」概念――「他なるもの」において自己認識する「私」モデルの構想」では、Ch・テイラーや酒井潔の「自我」論を土台としつつ、キルケゴールのテクストに見出される近代的「自己」の独自の運動を明らかにすることを試みた。 さらに令和3年6月の実存思想協会第37回大会での個人研究発表「キルケゴールにおける「修正」概念の構成――既成のものへの抵抗という歴史的思考モデルとしての読解」では、1849年以降のキルケゴールの日記記述に登場する「修正するもの」概念を主題とし、そこから読み取ることができる「既存体制」への批判的態度を検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、予定していた研究計画に対して、やや遅れている。近代化や啓蒙のコンテクストからキルケゴール思想の社会哲学的意義を考察するという本研究の課題に関して、令和3年度の取り組みから、主として以下の二点について進展が見られるが、特に後者の点についてさらなる検討が必要である。 第一に、アドルノの視座からすると「啓蒙」と呼ばれうる社会の近代化に対して、キルケゴール思想が二重の理論的・実践的関係をとっている点が明らかにされた。というのも、キルケゴールは、一方で社会の変動に背を向ける内面的「自己」概念を構想しているが、他方でそのような「自己」を「他なるもの」や外的世界との関係において理解し、その関係に内在的批判を行ってもいるからである。この論点については、『社会思想史研究』第45号に掲載された論文や、キェルケゴール協会学術大会での研究報告および『モナドから現存在へ』に収録された論文において、研究成果が発表された。 第二に、キルケゴールが同時代の社会に対して実際にどのような実践的態度をとっているのかという論点について、一定の検討がなされた。すなわち、キルケゴールの日記の読解・分析を通して、彼が同時代の「既存体制」に対して「修正するもの」という社会批判的態度をとっていたことが、明らかにされつつある。この論点は、実存思想協会大会での個人研究発表において既に一定の成果が示されたが、今後さらに考察が進められる予定である。 なおコロナ禍に関する状況から、令和3年度に予定していた国外研究機関への訪問は実現しなかった。とはいえオンラインで開催された国内学会(キェルケゴール協会、実存思想協会、日本哲学会、社会思想史学会など)やドイツ語圏の研究者によるキルケゴール研究会(Kierkegaard-Kolloquium)への参加を通して、本研究に関わる議論についてさらに考察を深めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度は、これまでの研究成果を引き継ぎ、キルケゴール思想の社会哲学的意義をさらに検討していく。第一には、キルケゴールが、実際に彼が生きた時代のコンテクストにおいて眼前の「既存体制」にどのように対峙しそこからどのような思想を提示しているのかという点を、明らかにする。また第二に、そのようなキルケゴール思想が、アドルノらによる批判理論とどういった点で結びつくのかという点について、考察する。 これらの論点は、令和2年度・3年度と同様、主として文献(キルケゴールや批判理論の一次文献や関連する二次文献)の読解を通して考察される。こうした文献の分析・検討から、近代化や啓蒙というコンテクストにおけるキルケゴール思想の社会哲学的意義が、そしてそれがアドルノらの批判理論と共鳴する論点が、明らかにされる。こういった取り組みを通して、本研究は、個々人が合理化のプロセスに不可避的に巻き込まれている近現代社会において構想しうる批判的主体のモデルを提示することを試みることになる。 令和2年度・3年度に引き続き、本研究の成果は、様々な学会・研究会での研究発表や専門家との議論を通じて展開されることが期待される。コロナ禍の状況次第ではあるが、令和4年度は、国内外の研究機関への対面での訪問が少しずつ可能となっていくことが期待されるため、できる範囲で対面で(またそれが困難であればオンラインで)様々な学会・研究会へ参加し、本研究の成果を議論していく。そしてその成果は、研究論文などの形で公の議論に開かれることが期待される。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の状況から、予定していた国内外の研究機関への訪問や学会・研究会への対面参加ができなかったため。令和4年度には、できる範囲で、研究機関への訪問や学会・研究会への対面参加を行うことを予定。
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