2021 Fiscal Year Research-status Report
フランス現象学の領域横断的展開を踏まえた対話の哲学の系譜学的再編
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20K12793
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
佐藤 香織 神奈川大学, 国際日本学部, 非常勤講師 (50839404)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | フランス現象学 / レヴィナス / デュフレンヌ / ドイツユダヤ思想 / ローゼンツヴァイク |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は「レヴィナスと女性的なもの」および論文「レヴィナスとユダヤ思想」を執筆した他、レヴィナス『タルムード四講話』の著作紹介を行った(共著『レヴィナス読本』として2022年に刊行予定である)。また、『個と普遍 レヴィナス哲学の新たな広がり』(2022年1月刊行、法政大学出版局)に「〈われわれ〉の存在論 レヴィナスとローゼンツヴァイク」を発表した。これらは、レヴィナスおよびローゼンツヴァイクを中心として「対話」の問題を再考するという本研究の骨子となる部分に属しており、また、最先端のレヴィナス研究に寄与するものである。 その他、論文「デュフレンヌ『美感的経験の現象学』における「準-主観」の問題」が『実存思想論集』(36)に、論文「デュフレンヌにおける美感的還元」が『フランス哲学・思想研究』に掲載された。これら二本の論文はフランス現象学に位置づけられるミケル・デュフレンヌのうち、特に美的経験の問題を扱うものである。その意義としては、日本でかつて受容されていたが現在研究が途絶えており、かつフランスで現在見直される傾向にあるデュフレンヌの思想を検討するとともに、その「準-主観」という概念を明らかにすることにある。本研究においてこれらは間主観性の問題に関する、レヴィナスとは異なるアプローチを検討する部分として位置づけられる。 さらに、2022年3月実存思想協会シンポジウム「ローゼンツヴァイクとハイデガー」において、「ローゼンツヴァイクのコーエン論におけるハイデガー:「入れ替えられた前線」を起点として」を発表した。これは最晩年のローゼンツヴァイクによるコーエン『ユダヤ教を源泉とする理性の宗教』への書評におけるハイデガーへの言及の意義を論じたものである。この発表では聖書読解から人間を被造物として論じるローゼンツヴァイクの議論と『存在と時間』におけるハイデガーの議論の比較検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2年目となる当該年度は、前年度に発表した二本のデュフレンヌの論考を完成させた。当該論考は学会論文として実存思想協会および日仏哲学会に採用、掲載された。これは当初3年目に行うことを予定していたものである。 また、「研究業績の概要」にも記した共著『レヴィナス読本』『個と普遍』への寄稿の他、以下の活動を行っている。まず、2022年度以降に刊行が予定されている共著である政治論集『[改訂版]戦うことに意味はあるのか』(弘前大学出版会)に、レヴィナスについての研究論文を寄稿した他、エマソン『代表的人間たち』第1章の翻訳と解説を行い、研究会にて発表を行った。ドイツ認識論史論集『見ることに意味はあるのか』(弘前大学出版会)に関しては、ローゼンツヴァイクに関する論文の準備および共著を作成するための研究会に継続的に参加している。また、UTCPブックレット〈哲学×デザイン〉プロジェクト2016-2021 共創のためのコラボレーション」においてレヴィナスに関する原稿を執筆した。これらの研究会活動、共著への執筆や執筆準備、合評会でのコメンテーターといった仕事を通じて、レヴィナスとローゼンツヴァイクに関する単著の準備も進めることができた。とりわけ、本年度の主題の一つであるレヴィナスの主著『全体性と無限』における「対話」の時間的・空間的意味という主題に関しては、『[改訂版]戦うことに意味はあるのか』において2022年度に発表予定である。 また、実存思想協会のシンポジウムで行った発表に含まれる、晩年のローゼンツヴァイクの聖書研究およびその独自のコーエン読解とハイデガーの思想の比較検討といった作業は、後期レヴィナスの思想の検討および「対話」の意味を問い直す試みに属している。これは3年目に引き継がれるべき主題である。 ほぼ準備のできているC.シャリエ『無限者の痕跡』の翻訳の刊行は、2022年を予定している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、C.シャリエ『無限者の痕跡』の翻訳の刊行を優先的に考える。この成果を踏まえてレヴィナスにおけるユダヤ教の意義の再検討を行い、シャリエの業績およびレヴィナス研究における位置づけも検討した上で、この論点に関する最新のレヴィナス研究を本年度の研究に反映していく。 また、「現在までの進捗状況」に挙げた各共著の刊行に向けて、前年度の研究を継続して各論考を完成させる。それぞれは共著の目的に適ったものであるとともに、フランス現象学の領域横断的研究という本研究の主題にとって欠かせないものである。 それとともに、ローゼンツヴァイクとレヴィナスに関する単著執筆準備をしていく。そのために今年度は当初の予定通り、リクールによる「証言」に関する議論との対比の上で、後期レヴィナス、とりわけ第二主著『存在の彼方へ』第五章の「証言」に関する議論を検討し論考として発表する。この研究の過程で、ハイデガーの真理論と後期レヴィナスの証言論という主題を扱う予定である。これは、レヴィナスによる「対話」の哲学批判の意義、およびレヴィナス自身が「対話」の哲学に対していかなる哲学を提示しているのかということを示すために必要な論考である。この研究の成果を学会論文として投稿することを予定している。また、前年度に引き続き、後期ローゼンツヴァイクの聖書物語読解およびヘルマン・コーエン読解について研究を進める。前年度は、この点に関するローゼンツヴァイクの二次研究の読解を行ったので、本年度はそれらを通じてさらにコーエンおよびローゼンツヴァイクの読解を進める。この研究の成果を、共著であるドイツ認識論史論集『見ることに意味はあるのか』(弘前大学出版会)で発表する予定である。 「対話」に関する研究の実践的側面としては、本年度は実存思想協会の6月の大会時に行われる哲学カフェにおいてファシリテーターとして参加する予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ感染症拡大の影響により、学会出張がオンライン開催になり、出張費への使用予定および海外研究、海外における研究発表などの予定がなくなったため。 次年度、自著準備(書籍購入、資料印刷代、スキャナ、ノートパソコン(Windows)、タブレット)、学会関連費用(出張費(オンライン開催の場合もあり)、投稿のための外国語添削)のために使用予定である。
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