2020 Fiscal Year Research-status Report
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20K12794
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Research Institution | Nagoya University of Commerce & Business |
Principal Investigator |
山蔦 真之 名古屋商科大学, 国際学部, 准教授 (50749778)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | カント / ヘーゲル / 倫理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究にあっては後述の通り、二つの論文、および学会発表がなされた。 研究実施計画に従って、当該年度はヘーゲルのカント批判の全体像を素描することを試みた。ヘーゲルのカント批判は、本研究がもっとも重視するカント倫理学批判を含め、多岐にわたる論点に関わっている。そのため研究発表に際しては、何らかの主題あるいは概念に的を絞る必要が生じた。 そのため本研究はまず「知的直観」の概念を通じ、カントとヘーゲルとの哲学上の差異を明らかにしようと試みた。「知的直観」はカントに続く世代の多くの哲学者や文学者が取り上げた概念であり、カント哲学のその後の展開を分析するために鍵となる概念である。ヘーゲルにまで至る「知的直観」概念の趨勢を見ることは、カントとヘーゲルの哲学のありかたそのものを比較するためにも有用な方法であった。「知的直観」概念はまた、カント倫理学の成立条件にもなっており、この概念を通じてどのような倫理的思考が可能であるのかも分析の対象となるものである。 本研究はカント「倫理学」に対するヘーゲルの批判を分析することを目的としたものである。しかしながら本年度の研究を通じ、ヘーゲルの批判はいわゆる「実践哲学」の枠内にとどまったものではなく、「理論哲学」を含むカント哲学全体の展開に関わっていることが明らかになった。そのため本年度の後半からは、ヘーゲル哲学の全体の中でのカント哲学の位置づけをすることが研究の中心となっている。さしあたりは『精神現象学』におけるカント哲学の位相を分析することがなされた。その成果は5月に予定されている日本哲学会の発表にて公開予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画していた通り、ヘーゲルのカント批判がみられるテクストの箇所を分析し、研究発表を重ねているため。しかし同時に、本研究の問題が当初考えられていたより大きいものであることが明らかになった。 本年度の研究発表にあっては「知的直観」の概念を通じ、カントとヘーゲルの哲学・倫理学的立場の相違を明らかにした。これは学会発表において一定の成果を示すことが出来、また単論文として発表することが可能なものである。その点において本研究は順調な進展を見ている。 しかし同時に、本年度の研究を通じて、ヘーゲルのカント倫理学批判はいわゆる「道徳哲学」の内部でどのようなポジションをとるのか、という問題にとどまらないことが理解された。ヘーゲルとカントの相違は、共同体主義対個人主義、コミュニタリズム対リベラリズムといった仕方で語られることも多いが、しかし本研究は、ヘーゲルの議論がそのような対立軸では語りつくせないこと、そのカント倫理学批判は倫理的思考の可能性そのものを問題にしていることを論じた。 それゆえ本研究はヘーゲルの哲学の全体像への一定の視野を得たうえで、そこからヘーゲルのカント批判を理解することを今後の目的として据えることとなった。さしあたりは『精神現象学』におけるカント批判、来年度・再来年度以降は『論理学』におけるカント批判を分析の対象とする予定である。 研究の方向性が大きな対象を持つこととなったが、しかし広がりのある研究が実現すれば大きなインパクトのある成果へとつながるものであると期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画通り、『精神現象学』、そして『法の哲学』におけるヘーゲルのカント倫理学批判の分析を行い、それを発表する。しかし同時に、ヘーゲル論理学を含むヘーゲル哲学の全体像をとらえ、それとカント哲学との比較を行うべく準備を進めていきたい。
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