2021 Fiscal Year Research-status Report
Rethinking the Concept of Wildness
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20K12797
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
小林 徹 龍谷大学, 文学部, 准教授 (70821891)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 構造人類学 / 野生の存在論 / 図式論 / 感染症 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究の初年度は、準備段階として文献研究を行った。現代人類学を代表するフィリップ・デスコラの立場は構造人類学と呼ばれるが、その理論的中心となるのは独自の図式論であり、この点に関する彼の発言を調査した。また、彼の主著である『自然と文化を越えて』の合評会に翻訳者として参加し、彼の図式論の人類学的あるいは哲学的含意について、さまざまな立場の研究者と意見交換を行った。さらに、今日の人類学を具体的に展開する動きとして、『流感世界』を中心とするフレデリック・ケックの業績を追跡した。 研究の第二年度は、以上の準備段階を踏まえて、西洋的な宇宙論における自然と文化の「大分割」の手前に位置づけられているデスコラ独自の図式論に関して、主にその哲学的な文脈を調査し、本研究のメインテーマである野生概念とのつながりを明確にした。この点については、とりわけモーリス・メルロ=ポンティの思想とデスコラとの関連、さらにデスコラを取り巻く現代人類学の諸動向との関連を明らかにし、日本メルロ=ポンティ・サークル主催のシンポジウムにおいて発表した(「野生を取り戻す:メルロ=ポンティと現代人類学」)。 また、フレデリック・ケックについても初年度に引き続いて調査を進めた。彼の思想は、クロード・レヴィ=ストロース以降、デスコラに引き継がれた構造人類学を、より今日的な状況の中で展開させる動きを含んでいる。この観点から、彼の論文「アジアの虎たちと中国の龍:パンデミックに対する前哨地間の競合と協働」の翻訳と改題を行い(西山雄二編著『いま言葉で息をするために:ウイルス時代の人文知』所収)、現代人類学の試みを現下のコロナ禍という文脈の中で問い直した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現代フランス思想における「存在論的転回」を代表するフィリップ・デスコラの思想を図式論の観点から掘り下げ、モーリス・メルロ=ポンティの「野生の存在論」との関連を明確にするという点では、一定の成果を上げることができた。また、哲学と人類学をまたぐ領域横断的研究という面でも、研究会やシンポジウムを通じて有意義な交流がなされた。予定していたデスコラへのインタビューは果たされなかったが、研究はおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の最終年度となる本年度は、前年度までに獲得された理論的立場を、さらなる文献研究を通じて確かなものとする。具体的には、野生概念について、フィリップ・デスコラやフレデリック・ケックに関する人類学的研究と、モーリス・メルロ=ポンティに関する哲学的研究という二つの側面からアプローチするという方向性を維持しつつ、メルロ=ポンティの野生概念に深い影響を与えたと思われるクロード・レヴィ=ストロースの思想について、とりわけその構造概念の解明を中心に掘り下げる。この点に関しては、特に構造人類学の発生状況について、言語学者ロマーン・ヤーコブソンとの往復書簡の翻訳を通じて調査を進める(翻訳は本年度刊行予定)。また、デスコラやケックへのインタビューを行い、本研究の成果をより確かなものとする。
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Causes of Carryover |
洋書購入の際の物品納入が想定外に遅延し、年度内の決済に間に合わなかった分が次年度使用額として生じた。当該書籍の購入に当てる予定である。
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Research Products
(2 results)