2020 Fiscal Year Research-status Report
南北朝時代から隋代への礼学の変遷―礼学と実用のあいだ―
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20K12804
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
池田 恭哉 京都大学, 文学研究科, 准教授 (50709235)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 五礼 / 儀注 / 徐遵明 / 『顔氏家訓』 / 牛弘 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、南北朝時代から隋代における学者たちの「礼」に対する認識を探るべく、南北朝時代の正史の精読に意を注いだ。特に北朝では『魏書』『北斉書』の儒林伝(儒者の列伝)を重点的に読解することで、当時の社会による「儒」に対する認識と、儒林伝に列せられる人物たちの実際の振る舞いを探った。 その成果が、『漢学とは何か 漢唐および清中後期の学術世界』(勉誠出版、2020年)に所収の論文「北朝の学問と徐遵明」として結実した。そこでは北朝の学界において徐遵明という人物が果たした指導者的な役割を明らかにするとともに、彼が伝承した学問がその後の北朝、隋へとどう継承されていったのかについて、見通しを得た。今後はその見通しを、実際の徐遵明の後継者の動向に即して、実証していくことが課題になる。 また南朝と北朝の交流という観点からも、一定の成果をあげた。第一は、口頭発表「典故の形成とその用法-「桓山之悲」を例に」(古典学的重建:出土文献与早期中国経典研究視訊国際学術研討会、2020年12月、中国語)であり、第二は論文「「無徳而称」について-表現形式の成立とその展開をめぐって-」(『京都大学文学部紀要』第60号、2021年)である。どちらも一つの典故をめぐり、南朝と北朝でのその使用法の様相をたどりつつ、双方での影響関係について検討した。王朝としては分断されていた南北両朝の間で、確実に伝播していた「知識」の実態を明らかにすることに成功した。 さらに隋代を生きた王通が著した『中説』の訳注の連載も、第七弾として「王通『中説』訳注稿(七)」(『香川大学教育学部研究報告』第4号)を公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
北朝から隋代への学問の展開を視野に入れる形で、一定の研究成果は世に問うことができた。その点では研究は着実に進展を見せてはいる。ただ本研究課題の主要なテーマの一つである「五礼」や「儀注」といった観点からのアプローチは、なお見出だせていない。その意味で、全体的な研究の進捗状況としては、当初の目的から見れば「やや遅れている」と言わざるを得ないと考える。 ただし基礎的な資料の収集は、正史儒林伝の読解など着実に進めており、今後は対象を『周書』や『隋書』にも広げて、比較検討に着手していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は『周書』『隋書』について、儒林伝の読解を進め、北魏・北斉・北周・隋という各王朝を分断する形ではなく、北朝全体における経学を中心とした学問の継承の実態を明らかにしていく。またその過程で、南朝との学問上の交流にも目を配る。 また特に隋王朝は、南北両朝の統一に伴い、牛弘らが主となって南北両朝における礼をまとめた。当然そこには様々な異説が存在したわけだが、それをまとめる際に牛弘が依拠したものの一つとして、「五礼」や「儀注」に着目するのが、本研究の主眼である。今後はこの観点から、隋代における礼の議論をたどっていくことに力を注ぐ。 加えて連載中の『中説』の訳注稿も、継続して第八弾を発表するべく準備を進めていく。
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Causes of Carryover |
今年度は新型コロナウィルスの流行により、国内外の学会は中止が多く、実施されたとしてもオンライン形式ばかりであり、旅費が発生しなかった。次年度も状況は不確定であるが、オンライン形式であっても海外での発表を積極的に行い、その際には外国語論文の校正の謝金などが発生すると予想される。また物品費などの購入にも、より積極的に助成金を活用する。
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