2021 Fiscal Year Research-status Report
南北朝時代から隋代への礼学の変遷―礼学と実用のあいだ―
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20K12804
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
池田 恭哉 京都大学, 文学研究科, 准教授 (50709235)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 五礼 / 儀注 / 徐遵明 / 顔之推 / 牛弘 / 北斉書 / 王通『中説』 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究実績として、第一に挙げるべきは、北斉王朝の歴史を描いた正史たる『北斉書』の邦訳を出版したことで、『中国史書入門 現代語訳 北斉書』(共訳、勉誠出版、2021年)がそれである。担当部分で言えば、北朝の学者たちによる儒学の継承の実態を述べた「儒林伝序」や、南北朝時代を代表する士大夫の顔之推による、自らの人生を省察した「我が生を観るの賦」が、本邦において初めて訳され、北斉王朝の動向や、北朝の文化のあり方をめぐる基礎資料を、わかりやすい日本語で世に問うことに成功した。 第二に挙げるべきは、昨年度に引き続く形での、典故の用い方をめぐる変遷についての成果である。具体的には、口頭発表「典故的形成与其用法―「分形同気」為例―」(中国語、中古中国制度・礼儀与精神生活 国際学術研討会、2021年8月)、それに基づき補訂を施して活字化した論文「典故の形成とその用法―「分形同気」を例に―」(『香川大学国文研究』46号、2021年)である。三国魏の曹植が、兄の曹丕との関係を念頭に、兄弟を「分形同気」と表現したが、その表現と曹丕・曹植の兄弟像が、北朝にあってどのように受容されたのかについて、実例に即し、かつ表現者の精神の有り様に踏み込みつつ、詳細に検討した。またその過程で、南北朝時代に頻繁に起こった王室の兄弟による国家権力をめぐる闘争に着目し、その礼学や経学との関係を踏まえながら考察する必要性を見出した。これは今後の研究への発展の可能性を十分に孕むものと考える。 あわせて隋の王通が著した『中説』の訳注の連載も継続しており、「王通『中説』訳注稿(八)」(『香川大学教育学部研究報告』第6号)が公表になった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
北朝から隋代への学問の展開を視野に入れた形での研究成果は、これまで複数公表することができており、その意味では研究は着実に進んでいる。ただし本研究課題の主要なテーマである「五礼」や「儀注」といった観点からの成果は、なお口頭発表、論文の形で結実してはいない。そのため「やや遅れている」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
進捗状況の項目でも言及したように、北朝および隋代における学問が、礼学や経学とどのように結びつくのかを探ることが、本研究の主眼の一つである。その点について、今後は下記の見通しに立って、研究を推進していく。 まずはすでに読解を進めている正史儒林伝などを資料に、北朝から隋代にかけての儒者の動向を丹念にたどり、それと礼学、経学の関わりについて、成果をあげていきたい。加えて本年度の研究成果の中で見出した、王室の兄弟と国家権力のあり方と、それに関わる礼制度に対する認識についても、考察を深めるつもりである。
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Causes of Carryover |
今年度も新型コロナウィルスの流行により、国内外の学会は多く中止もしくはオンライン開催となり、国内外を問わず旅費がほとんど発生しなかった。次年度は少しずつ対面による学会開催も増えるかと予想されるので、それらには積極的に参加するとともに、海外で開催のオンライン形式の国際学会で成果を積極的に発表する予定なので、その際には外国語論文の校正の謝金などが発生する。加えて国内外で出版が再び盛況を迎えている感があるので、それらの購入にも助成金を活用し、自らの研究に資する。
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