2020 Fiscal Year Research-status Report
道教から聖教へ―中国密教における喫茶文化の形成に関する研究―
Project/Area Number |
20K12806
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Research Institution | Jissen Women's University |
Principal Investigator |
張 名揚 実践女子大学, 研究推進機構, 研究員 (80850875)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 喫茶文化 / 道教 / 密教 / 仙人 / 山林 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、「称名寺聖教」に見える茶を供物とする密教星供に関する記述を中国の資料と対照しながら、密教星供の理論に包摂された祭祀対象について考察を行った。その成果を「仙人と茶―中国から日本へ―」(実践女子大学文芸資料研究所編『年報』第40号、2021年)として発表した。 称名寺所蔵「順忍書状」(「金沢文庫文書994」)紙背「題未詳聖教」(以下、「題未詳聖教」と略称)には、茶は仙人が嗜む仙薬であること、仙薬は天仙に位置付けられる星に献上できることが書かれている。星を茶で供養することについては、『覚禅鈔』などの密教書にも記載されているが、仙人が茶を嗜む理由について具体的に述べられた資料は管見に入っていない。しかし、「題未詳聖教」には酒の代わりに茶を用いても良いと記されており、こうした記述は、その他の称名寺所蔵資料や、平安時代の資料にも見られる。日本における茶の流通は鎌倉時代末期以降であるため、当時の日本の実情に合わせることなく、中国の情報をそのまま受容したと考えられ、仙人と茶との関係も中国由来である可能性が浮上してくる。また、中国唐代以前の文献を繙いていくと、山林に住む奇異な僧侶・道士・仙人の描かれ方には類似点が見いだせるが、『茶経』において茶を飲用するとされる丹丘子と単道開の記述も同様である。『神異記』に見える瀑布山の「道士」丹丘子は仙人ともされており、『晋書』に見える羅浮山に隠棲した、仙人のような奇異な僧侶である単道開は「道士」と称されている。日本に道教は伝来しなかったため、「道士」は存在しなかったが、丹丘子と単道開と似通った日本の仙人は霊山縁起に登場し、茶は山林で自生するという考えは中国から日本へも伝わっている。「題未詳聖教」に見える文言は、中国の思想文化を背景に持っていた可能性が高い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルス拡大の影響で資料の収集などに少々影響が生じたが、今まで集めてきた資料の精読を通じて新たな問題点を見出すことができたので、本研究はおおむね順調に進んでいると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
密教星供の理論に関する考察を継続するとともに、実際の密教星供に不可欠な法具、とくに茶を入れるものについても考察を行う。密教が本格的に中国に伝来するのは唐の開元年間(713-741)頃とされており、これは喫茶文化が流行しはじめる時期でもある。開元以降、茶の飲用と密教の伝播状況に注目しつつ、理論については文献に残された記述を中心に、法具については中国寺院から出土された供養具と茶器、そして中国の宗教・文化を受容した日本の器物についても考察していく。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、調査の回数が予定していた回数を下回ったため、経費の使用にも影響が生じた。次年度に繰り越す経費を、(一)聖教、とくに密教関係のものを調査する際に必要な費用(二)宗教・喫茶文化に関する資料を調査する際に必要な費用(三)関係書籍を購入する費用として使用する予定である。
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