2021 Fiscal Year Research-status Report
道教から聖教へ―中国密教における喫茶文化の形成に関する研究―
Project/Area Number |
20K12806
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Research Institution | Jissen Women's University |
Principal Investigator |
張 名揚 実践女子大学, 研究推進機構, 研究員 (80850875)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 「称名寺聖教」 / 煎茶法 / 点茶法 / 密教 / 星供 / 法具 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、引き続き「称名寺聖教」をテキストに、特に密教星供の茶を入れる法具に注目しながら考察を行い、その成果を「「称名寺聖教」から見る密教星供と唐宋期の喫茶文化」(『金沢文庫研究』第347号、2021)として発表した。 茶を入れる星供の法具について、覚成(1126~1198)による「沢抄第八 星宿」(260函-1-8)によれば、「白瓷(シラシ)」と「黒器(クロツキ)」の使用が可能である。また「白瓷」と「黒器」の利用とともに、「白瓷ノ盤」と「黒器ノ盤」とあわせて利用することも、「沢抄第八 星宿」に記されている。「沢抄第八 星宿」には星供の法具の器形が記されていないが、「秘抄 北斗」の壇図(261函-1-2など)によれば、茶を入れる星供の法具の多くは、受け皿の上に置かれる器の形を呈するものである。 「沢抄第八 星宿」は、供物としての茶を「煎茶」と指定しており、かつ「煎茶」「白瓷」「白瓷ノ盤」の使用は、密教が成育した唐代中国の社会文化と一致している。しかし、同資料では「黒器」と「黒器ノ盤」の使用も可能、つまり星供における「黒器」の使用を認めているのだが、これは『覚禅鈔』などの密教書の規定、すなわち息災延命の修法では白色系の器物を用いるということと矛盾している。「沢抄第八 星宿」の記述は、宋代の代表的な喫茶法、すなわち点茶法と、それにあわせて利用される黒色の茶碗からの影響を受けたものと思われる。ただ「沢抄第八 星宿」では「煎茶」としか記されておらず、また「星供」(319函-81-7)にも「黒器」と「煎茶」の組み合わせが記され、点茶法と思われる方法が「煎茶」に次いで記載されている。点茶法と黒器は、宋代社会においては両者をともに用いることが典型であったが、中世の密教寺院において点茶法には黒器を用いるという認識は、あまりなされていなかったようである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルス感染拡大の影響で資料の収集などに少々影響が生じたが、今まで集めてきた資料の精読を通じて新たな問題点を見出すことができたので、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
喫茶法が煎茶法から点茶法に切り替わっていく中世日本において、「黒器」と「煎茶」という異質ともいえる組み合わせが認められたことは、単純な問題ではない。この点については、日中文化交流のみならず、さらに日本における物質文化と仏教の交渉や、密教を含む仏教の多様な宗派間の交流などを総合的に考えていきたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、調査の回数が予定していた回数を下回ったため、経費の使用にも影響が生じた。次年度に繰り越す経費を、(一)密教聖教を調査する際に必要な費用(二)宗教や喫茶文化に関する資料を調査する際に必要な費用(三)関係書籍を購入する費用として使用する予定である。
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