2022 Fiscal Year Research-status Report
中近世京都日蓮教団の教義思想に関する基礎研究:広蔵院日辰の著述文献に注目して
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20K12808
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Research Institution | Rissho University |
Principal Investigator |
神田 大輝 立正大学, 仏教学部, 助教 (00831132)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 日辰 / 要法寺 / 京都日蓮教団 / 日蓮宗教学史 / 日真 / 惣釈 / 日隆 / 法華宗本門弘経抄 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は京都府本山要法寺にて宝物調査を実施した。本調査では、戦国期京都日蓮教団の教学史研究において横断的な成果が見込める、広蔵院日辰が天文期に書写した①『惣釈』一冊(常不軽院日真述、日莚筆)、②『法華宗本門弘経抄』(慶林房日隆著)の寿量品下(十三帖内第一・第二)一冊と③同神力品下(五帖内第四)一冊、都合三冊の撮影を行った。 ①『惣釈』は『法華文句』巻一上の談義書であり、すでに2020年度の研究成果として、近代の写本をもとに解読を行ったが、原本の実見が必要と判断したため、発表を見送っていた。本奥書には、永正4年(1507)正月23日に日莚という僧が書写した旨を伝える。天文11年(1542)正月29日に日莚本を書写した日辰は、その内容から、常不軽院日真の解義と推定し、内題下に「本隆寺開山不軽院日真上人講釈」という記載を加えている。いまだ全体の分析を進めている途上にあるものの、本文中には「日辰云」等の注記が散見できることから、後年、特に弘治・永禄年間の著述(思想完成期に属するもの)につながる教義思想の立脚点を捉え得るものと予想される。2023年度の学会発表・論文成稿を計画している。 ②『法華宗本門弘経抄』寿量品下の日辰写本には、天文13年(1544)正月21日の書写年月日を載せている。本奥書には「筆者日真」「筆者日也」とあり、本隆寺に伝来する写本が底本とされたものと考えられる。戦国期京都日蓮教団の一大思潮として注目すべき八品門流と日真(本隆寺)間の関係(連携と断交の歴史)、その潮流につらなる日辰の立ち位置を捉える上で貴重な史料となる。 ③同神力品下の日辰写本は奥書から、天文11年5月3日、京都妙満寺住僧戒光坊日要の所持本を書写したものであることが判明する。②③の基本書誌、及び書写経緯と目的について、11月開催「第74回日蓮宗教学研究発表大会」(日蓮宗宗務院)にて口頭発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2022年度の前半は、昨年度に続き、新型コロナウイルス感染症の流行により、史料調査等の研究計画に大幅な制限をうけた。しかし、後半にはコロナ禍が沈静化したころ合いを見計らって、本研究課題の主要な目的である京都府本山要法寺の宝物調査を実施することがかなった。 本調査では、2020年度の段階でコロナ禍の影響により、原本(日辰直筆本)を実見することができず、研究の発表を見送っていた『惣釈』一冊の全体像が明らかとなり、確かな書誌情報を得ることができた。また、新たに『法華宗本門弘経抄』日辰写本の存在を確認できたことにより、本研究課題で重要なテーマの一つに定めていた日辰の修学(素養)期・思想形成期にかけての学問活動と、対外的な問題意識を委細にできる重要な手がかりが得られた。 また、日辰の書写経緯が本隆寺僧や妙満寺僧の手にかかる同抄の伝来に由来している事実も、戦国期京都教団(特に勝劣派)の思想的潮流(日隆義の影響)を捉える手がかりとして、横断的な成果をもたらすものと考える。 しかしながら、これらは本研究課題で調査対象に定めた史料の一部にとどまるのであり、研究の進捗に遅れがあることは否定できず、さらに重ねて現地での宝物調査を実施し、各史料の分析を進めていく必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は、2022年度が研究期間の最終年度にあたるが、2021年度までコロナ禍により現地調査を実施できなかった期間を補うため、研究期間の延長を申請した。上記の通り、2023年度は当初の研究計画になるべく沿うように、現地調査を実施し、調査史料の解読と分析を進めていきたい。
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Causes of Carryover |
2022年度の前半は、前年度に続き、現地調査を実施することができず、ようやく後半に実施することができたものの、それも一度にとどまったため、調査旅費等の消化がかぎられた。2023年度は、コロナ禍による制限も緩和されたので、当初の計画通り、現地調査を主とした研究内容にもどし、課題の遂行をめざしたい。
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