2023 Fiscal Year Research-status Report
中近世京都日蓮教団の教義思想に関する基礎研究:広蔵院日辰の著述文献に注目して
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20K12808
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Research Institution | Rissho University |
Principal Investigator |
神田 大輝 立正大学, 日蓮教学研究所, 研究員 (00831132)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 広蔵院日辰 / 要法寺 / 日尊門流 / 日蓮宗教学史 / 常不軽院日真 / 本隆寺 / 天台宗 / 談義書 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は、前年度までに調査した京都市本山要法寺所蔵の未刊史料のうち、戦国期京都日蓮教団の教学史研究において横断的な成果が見込める、広蔵院日辰の『惣釈』写本(全1冊)を翻刻し、検討を加えた。本書の内容は『法華文句』巻一の「四意(因縁・約教・本迹・観心)」釈の文段(『大正蔵』34巻2頁上20行~3頁上18行)部分を日蓮義の立場から注釈した談義書である。 日辰は、天文11年(1542)正月、日莚の写本が伝わる本書の内容を大永年中に受学した常不軽院日真(京都本隆寺開山)による談義(永正4年正月以前)と推定し、これを書写している。文中には書写者日辰のものとして確かな注記が17箇所に確認できる。それらは、永正4年以前の日真の談義を載せた本書の内容と、日辰が実際に聴聞した大永年中の日真の談義内容との間に思想的な推移が認められる旨や、日真の学説を尊重しつつも、日辰の属する日興門流の流義と異なる見解もある旨を指摘するなど、入念な研鑽の跡をみてとることができた。本書は、2020年度に発表した日辰著『法華論略大綱』とともに、戦国期日蓮教団の教学史上で重要な思潮を形成した日真・日辰両師の学問的繋がりに具体性を補足し得る好史料である。その成果は「日本印度学佛教学会第74回学術大会」にて口頭発表し、これを成稿して同学会機関誌『印度学仏教学研究』(第72巻第2号)に投稿した。 また、年度の後半には『惣釈』の書写を含め、研究代表者がこれまで調査してきた天文期の著述・書写文献に総合的な検討を加え、それらの活動で克服が目ざされた教学上の問題意識と、他門流の教義書を書写し得た人脈や学問の場には、当時の教団状勢を反映した特有の共通項があることを確認した。その成果は2024年度中に成稿し、発表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2023年度の前半は、広蔵院日辰の『惣釈』写本(全1冊)全体の翻刻を行い、これを完了させた。戦国期の京都日蓮教団において重要な思潮を形成した日真・日辰両師の事績と教学思想の授受関係を具体的に知れる『惣釈』の全体解明は、本研究の目的に沿うのみならず、今後の日蓮宗教学史の研究進展に裨益する確かな成果と考えている。 また調査の過程で、本山要法寺の蔵書に、日辰の思想形成期に括られる法華経の談義書が複数冊現存することを確認できた。現存史料には、立正大学日蓮教学研究所編『日蓮宗宗学章疏目録』(改訂版、東方出版、1979)をはじめ、日辰の著述を一覧化し、まとめている先行研究の収録分に含まれていないものもある。これらも日辰個別の学説解明にとどまらず、日本天台義をはじめとする対外思想の超克がめざされた京都日蓮教団における法華経解釈の一端を知る上で貴重な史料群である。以上の通り、新たな文献史料の解読、及び今後着手すべき研究のひろがりを得られたことも含め、本研究課題はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
補助事業期間の最終年度となる2024年度は、前年度の調査で現存が確認できた日辰の法華経談義書を調査・解読し、その特徴を検討したい。また、それと並行して、本山要法寺に所蔵される日辰の著作・写本について、本補助事業期間中、新たに確認できた現存分を含め、目録の作成を目ざしたい。
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Causes of Carryover |
2023年度は、調査先と研究代表者の都合により、当初複数回予定していた現地調査が予定通りに実施することができなかった。2024年度は、前年度に見送った分の調査を補い、課題の遂行をめざしたい。
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