2020 Fiscal Year Research-status Report
中世から近世への転換期に作成された牛頭天王信仰に関するテキストの総合的調査と研究
Project/Area Number |
20K12813
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Research Institution | Takasaki City University of Economics |
Principal Investigator |
鈴木 耕太郎 高崎経済大学, 地域政策学部, 講師 (90824863)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 牛頭天王 / スサノヲノミコト / 行疫神 / 除疫神 / 『釈日本紀』 / 『日本書紀纂疏』 / 悪神 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は新型コロナウイルス流行により、本研究の鍵ともいえる実地調査(牛頭天王信仰に関連する諸テキストの確認、閲覧および翻刻・撮影など)を自重せざるを得なかった。そのため、当初計画から予定を大幅に変更する必要性に迫られた。 具体的な変更点としては、まだ未翻刻あるいは未発表のテキスト類を調査によって掘り起こし、それらの読解を進めるとした当初計画を見直し、すでに翻刻されているものの先行研究などで論じられていないテキストの精緻な読解とそこから導き出される(テキスト作成当時に)牛頭天王信仰がどう受容されていたか、あるいは牛頭天王信仰とはどのようなものとして認識されていたかを論じるようにした。とりわけ中世・近世における知識人たちが牛頭天王という信仰対象をどのような存在として捉えていたかを検討することとし、牛頭天王のみならず、牛頭天王と習合・同体視されていたスサノヲノミコトや陰陽道の神(暦神)・天道神に対する検討も行った。 これらの考察の一部は次年度に論考化されることとなったが、スサノヲに関する小稿(研究ノート)は2020年度中に発表することができた(1)。具体的には、鎌倉中期の『釈日本紀』と室町中期の『日本書紀纂疏』とを比較して、スサノヲがどのような神として認識されているかを論じた。その結果、『釈日本紀』におけるスサノヲは「悪神」のように見えるものの、悪ではないとするのに対し、『日本書紀纂疏』ではスサノヲは悪神であり、しかしその悪から様々なものが生み出されたと論じられていることがかった。こうしたスサノヲ像の受容は、行疫神としての牛頭天王と同体視される一つの素地でもあったといえ、さらなる検討が必要となる。
(1)鈴木耕太郎「スサノヲの悪をめぐって――『釈日本紀』から『日本書紀纂疏』の変遷を考える――」(山下久夫・斎藤英喜編『日本書記一三〇〇年史を問う』思文閣出版、2020年6月)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
やはり新型コロナウイルス流行による実地調査を見合わせたことが研究に多少なりとも影響を与えている。2021年度もその影響を避けることはできず、計画の一部見直しをせざるを得ない。 ただ、その結果として既に刊行されている牛頭天王信仰に関するテキストを再度、精査する時間が生じ、その結果、翻刻済であるにもかかわらず、先行研究等も含めてこれまでその存在が言及されていなかった牛頭天王信仰に関するテキスト類を見つけることができた(例:奈良県生駒郡安堵町の飽波神社に伝わる縁起など)。また「研究実績の概要」欄にも記した中世・近世知識人による牛頭天王とその信仰に関する認識についても、検討することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルスの流行が一定程度収まるまでは、文献・史料の掘り起こしは極力控える必要が生じる(全国的に緊急事態宣言や蔓延防止等重点措置が解除されるまで)。それまでの間は、2020年度に取り組んだ中世・近世知識人による牛頭天王ならびにそれと習合ないし同体関係で語られる存在に関する認識を問うていきたい。とりわけ現在は、幕末において平田篤胤が記した『牛頭天王暦神辨』に着目し、篤胤と彼が引用している近世中期・尾張の国学者である天野信景『牛頭天王辨』などとの比較検討を行う予定である。あるいは、陰陽道において牛頭天王と同体の存在とされる天道神に関しても、検討を深めたい。 また、既に翻刻済でありながら未だ読解・研究が進んでいない各地の縁起(奈良県安堵町・飽波神社所蔵『安堵社神験記』や広島県三次市・須佐神社所蔵『須佐神社縁起』、天理大学附属図書館吉田文庫蔵『牛頭天王縁起』など)の読解を進め、それぞれの縁起において牛頭天王信仰はどのようなものとして示されているのかを明らかにし、中世から近世にかけて牛頭天王信仰をより立体的に捉えられるようにしたいと考えている。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの流行により、牛頭天王信仰に関連する未翻刻・未発表テキストの実地調査が行えず、各種学会などもオンライン開催となったことで年間の旅費の支出が0円となったため。
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Remarks |
(株)食文化より依頼を受け、牛頭天王に関連する学術コラムを連載。上記は第1回連載時のURL(現在は第9回まで連載)。
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