2020 Fiscal Year Research-status Report
13-14世紀におけるドミニコ会霊性の形成と展開―説教の分析を中心に
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20K12814
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Research Institution | Seijo University |
Principal Investigator |
松澤 裕樹 成城大学, 経済学部, 准教授 (70780617)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ドイツ神秘思想 / マイスター・エックハルト / ハインリヒ・ゾイゼ / 存在論 / 倫理学 / 無 / 神秘的合一 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、「説教者兄弟団」という正式名称を持つドミニコ会における霊性の形成と展開を、十三世紀のドミニコ会士における大学説教の研究、マイスター・エックハルトにおける大学説教と民衆説教の比較思想研究、十四世紀の民衆説教におけるドミニコ会霊性の変容と波及に関する研究を通して解明することにある。 今年度は、①エックハルトのドイツ語説教における存在論研究、②エックハルト断罪後に彼の弟子であったハインリヒ・ゾイゼによって書かれた師への弁明書として位置づけられる『真理の書』におけるエックハルト受容に関する研究を行った。 上記の研究①により、エックハルトの存在論における「無」の概念の重要性が明らかとなった。被造物における無、神における無に関しては、それぞれアナロギア論、知性論の文脈で理解されてきたが、人間における無に関してはこれまで構造的に研究されてこなかった。今回の研究を通して、人間における無が、被造物の存在様態を表す概念として神との合一に至るために捨て去るべきものとして否定的に用いられる一方で、神を受容する場を表す概念として神との合一に至るために必須なものとして謙虚さや離脱という徳に関連させて肯定的に用いられることが明らかとなった。また、これら相反する二つの意味を超えて人間の絶対的自由を表す絶対無という意味層も持ち合わせていることも窺えた。本研究結果は、独語論文にまとめ現在印刷中である。 上記の研究②により、ゾイゼはエックハルトの基本思想を受容しながらも、人間存在の本来的存在様態に対する理解、キリスト理解に関して彼独自の思想を展開していることが明らかとなった。来年度はこの研究結果を論文としてまとめ、ゾイゼにおけるドミニコ会霊性の展開について解明を進めたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、ドイツに渡航してアルベルトゥス・マグヌスやトマス・アクィナスの説教に関する文献を集める予定であったが、コロナウイルス感染症の影響により、両ドミニコ会士に関する資料を集めることができなかった。しかし、研究対象をマイスター・エックハルトとハインリヒ・ゾイゼに変更することで、手持ちの資料でなんとか研究を進めることができたので、研究対象は当初より変更されたが、おおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
現状では、ドイツに渡航して資料を収集することができない状況なので、引き続きハインリヒ・ゾイゼの著作におけるエックハルト受容の研究を進める。今年度は『真理の書』を中心に研究したが、今後はゾイゼの全著作を体系的に研究し、彼におけるドミニコ会霊性の展開をより包括的な視点から明らかにしたい。また、同じくドイツ神秘思想とその近辺領域を研究する日本・海外の研究者たちとZoom研究会を通して意見交換を積極的に行い、コロナ禍において色々な制限がかかる中で、様々な刺激を得ながら研究活動を活発化させていきたい。
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Causes of Carryover |
コロナウイルス感染症によってドイツ渡航が中止されたため、今年度の支出額が予定より少なくなった。状況が改善次第、ドイツ渡航を速やかに実行するため、次年度に繰り越した助成金はその際に使用されることになる。
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