2022 Fiscal Year Research-status Report
13-14世紀におけるドミニコ会霊性の形成と展開―説教の分析を中心に
Project/Area Number |
20K12814
|
Research Institution | Seijo University |
Principal Investigator |
松澤 裕樹 成城大学, 経済学部, 准教授 (70780617)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | ドイツ神秘思想 / ヨハネス・タウラー / 根底 / クラウゼ / 万有内在神論 / 新プラトン主義 / ドミニコ会 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、「説教者兄弟団」という正式名称を持つドミニコ会における霊性の形成と展開を、マイスター・エックハルトにおける大学説教と民衆説教の比較思想研究、十四世紀の民衆説教におけるドミニコ会霊性の変容と波及に関する研究を通して解明することにある。 今年度は、①前年度に行ったタウラーの説教におけるエックハルト受容に関する研究を論文としてまとめ(現在印刷中)、②新たに、エックハルトの全説教に通底する存在論と万有内在神論の関係について研究を進め、その結果を論文にまとめた。 上記の研究①では、タウラーの説教における鍵概念であるgrunt概念のドイツ神秘思想における位置づけが明確化された。従来の研究では、タウラーのgrunt概念がエックハルトのgrunt概念を継承しながらも、それとは異なる要素を有することが指摘されていたが、その原因について思想史的観点から解明されることはなかった。本研究により、タウラーがラテン語概念群(mens, scintilla animae, synderesis, apex mentis)を背景にもつ中高ドイツ語gemuteの意味と新プラトン主義の思想をgrunt概念に取り込むことで、エックハルトにおいては「神秘的合一の場所」を意味していたgrunt概念に「神への愛の動性」という新たな意味を付与したことが明らかとなった。 上記の研究②では、これまでカエタヌス(1469-1534)によるアナロギア論の分類に即して「帰属のアナロギア」という範疇の内で理解されてきたエックハルトの存在論を、新たにクラウゼ(1781-1832)の提唱する「万有内在神論」の枠組の内で理解する可能性について検討した。その結果、「万有内在神論」はエックハルトの存在論の一部においてのみ適用可能だが、彼の思想全体を包括する理論としては不適切であることが明らかとなった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、当初予定していたヨハネス・タウラーの全説教に関する研究を遂行することができ、エックハルト以降のドミニコ会霊性の展開について新たな成果を発表することができたため、研究はおおむね順調に進展していると言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では、以前はタウラーの著作だとされていたが、現在はその誤りが確定し、著者不明とされるドイツ神秘思想の著作『霊的貧しさに関する書』におけるエックハルトとタウラーの思想的影響を研究するとともに、当著作と密接な関連を有するフランシスコ会士リンダウのマルクヴァルトの中高ドイツ語説教を分析することで、ドミニコ会霊性のフランシスコ会への思想的影響についても検討を進めていく予定である。
|
Causes of Carryover |
コロナウイルス感染症の影響により、ドイツ渡航が中止されたため、次年度に繰り越された額は、次年度のドイツ渡航で使用される予定である。
|
Research Products
(4 results)