2020 Fiscal Year Research-status Report
近世・近代日本における真宗私塾のノンフォーマル教育に関する基礎的研究
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20K12820
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Research Institution | Ryukoku University |
Principal Investigator |
菊川 一道 龍谷大学, 公私立大学の部局等, 研究員 (10828205)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 近世仏教 / 近代仏教 / 近代真宗 / 江戸宗学 / 日溪法霖 / 日溪学則 / 学林 / 尺伸堂 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は真宗私塾に関する史料調査・蒐集・整理を行いつつ、特に①本願寺派の近世学林と「学則」、②尺伸堂に見る真宗私塾の原初形態、といった課題に取り組んだ。 ①については、1639年の学林創建以来、学頭を務めた歴代能化が独自の「学則」を示して僧侶養成を行った実態を分析した。特に江戸期に最も依用された第4代能化・日溪法霖の「日溪学則」(1730年)を中心に取り上げ、当該学則が江戸期はもとより、明治以降も宗学近代化言説と並行して肯定的に引用され続けた実態を明らかにした。これにより、江戸期の学林における僧侶養成の状況が浮き彫りとなったばかりでなく、従来対立的に描写されることの多かった江戸宗学と近代真宗学が、必ずしも対立関係にあったわけではなく、近代化を後押しする補完的役割を担ったことも詳らかとなった。本内容は日本宗教学会において「「近代真宗学」のなかの江戸宗学」と題して研究発表した。 ②については、従来、本願寺派では三業惑乱を契機とする学轍分裂にともない私塾が出現したという見方が大方であったが、惑乱以前に存在した越中の尺伸堂に着目することで、真宗私塾の原初形態を分析した。尺伸堂において用いられた独自の「学則」と、中央学林の「学則」を比較検討することで、当該塾が学林をモデルに地方における僧侶養成を強化しようと試みた実態について詳らかにした。本内容は真宗連合学会において「学国越中の研究―真宗私塾の原初形態をめぐって」と題して研究発表を行う予定である。 2020年度は当初、私塾が設置されていた寺院等で新出史料の蒐集や関係者への聞き取り調査を実施する予定であったが、コロナウィルスの感染拡大により、中止せざるを得なかった。本件については、次年度以降、状況を見極めつつ引き続き実施予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は、コロナ禍により関係先での史料蒐集が実施出来ない事態となった。しかしながら、近隣図書館等にて入手した史料を用いて、当初予定していた、近世学林および初期の真宗私塾の実態についてそれぞれ解明し、また比較検討なども行うことが出来たため、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は、各真宗私塾の位置づけを明瞭にするために不可欠である中央学林の僧侶養成システムを中心に分析した。また、黎明期の真宗私塾の実態を解明すべく、越中の尺伸堂にも着目した。前者において学林の「学則」の内実が詳らかになったことで、後者の尺伸堂が学林をモデルに地方において僧侶の学問研鑽を後押ししようと試みた状況を明らかにすることが出来た。ただし、100以上存在したと考えられる私塾の一部を取り上げたに過ぎず、真宗私塾の全体像の解明にはより複数の塾のケーススタディが求められる。2021年度は引き続き関係史料の蒐集に努めつつ、特に近世・近代にかけて真宗最大勢力となった空華学派の私塾群の分析を進める。各地の空華系の私塾において共通して用いられた「空華制約」と称される独自の「学則」の分析を行いつつ、彼らのグループが最大勢力へと発展したプロセスを明らかにする。
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Causes of Carryover |
2020年度は、コロナウィルスの感染拡大により、当初予定していた関係先での史料蒐集や聞き取り調査のための出張旅費を計上することが困難となったため、次年度使用額が生じた。
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