2020 Fiscal Year Research-status Report
1920年代~30年代ソ連文化におけるジェンダー表象
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20K12827
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
北井 聡子 大阪大学, 言語文化研究科(言語文化専攻), 講師 (40848727)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ロシア文化 / ジェンダー / セクシュアリティ / ロシア・ソ連史 / フェミニズム |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、1920年代のリベラルな家族政策や女性解放の動きが、如何にして1930年代の家父長的家族を賛美する抑圧体制へと移行したかを考察し、さらにその過渡的段階の文学作品に描かれたジェンダー/セクシュアリティの表象を分析した。主な分析の対象とした作品は、セルゲイ・トレチヤコフのコメディ『子どもがほしい』である。1926年に書かれたこの戯曲は、ソ連における新しい性のあり方を模索したものだが、政府の検閲が入り、何度か内容の書き換えが行われ、また1929年には映画化のためのシナリオも制作されている(作者の存命中は未上演・未制作)。本研究では、これら複数のテクストを比較・検討した。その結果、明らかになったのは、最初のバージョンは、母親業と労働を両立するソ連の「新しい女」の讃歌であったのが、最後に作られた映画のシナリオでは、母性に還元されない女性への激しい嫌悪が描かれていることである。この成果をもとに、3月に北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター主催のオンライン・シンポジウム『境界を超えるロシア』にて口頭発表を行い(題名「S・トレチヤコフ『子どもがほしい』における女の欲望」)。また同発表原稿は、推敲を加えた上で論文としても完成させた。こちらは5月刊行予定の雑誌に掲載される予定。 また、政治的な動きを確認するため「党女性部(Женотдел)」の考察を行った。党女性部は、1919年に女性解放を目的として設立されたが、1930年に党女性課への改組を経て、1934年に解体されている。このプロセスの背景にある政治的な議論を検討し、研究成果の一部は、論考として完成させた。(2021年6月刊行予定の共著の論集に掲載予定)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度は、コロナ禍の影響によって、所属機関において当初想定していなかった業務に多くの時間と労力を割くことになり、またロシアでの調査、アーカイブ資料等の収集が実現できなかった。こういった事情により、やや予定の変更を余儀なくされた。
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Strategy for Future Research Activity |
申請時の予定では、今年度は、革命期から1920年代前半の時期を扱い、来年度は、1920年代後半から1930年代への過渡期の分析を行うつもりであったが、既に後者の時期を今年度、考察したため、来年度は前半の時期に着目していく。 また、所属している研究会と、8月の国際学会(ICCEES)での口頭発表を予定しているが、そこで得られたコメントなどをフィードバックしつつ、研究を進めていく予定である。感染症の状況が改善されたなら、1920年―1930年代に発行された女性雑誌や、アーカイヴ資料の収集のため、大学の長期休暇期間中にロシアでの在外調査を行いたい。
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Causes of Carryover |
次年度は、ロシアの図書館やアーカイヴでの調査・資料収集のために多くの予算を充てる予定である。その他、パソコン関連機器(ipad)、国内研究会・学会への参加のための旅費、書籍購入の他、外国語(ロシア語・英語)での論文の執筆を予定しており、そのために校閲費にも予算を使いたい。
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