2022 Fiscal Year Research-status Report
1920年代~30年代ソ連文化におけるジェンダー表象
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20K12827
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
北井 聡子 大阪大学, 大学院人文学研究科(言語文化学専攻), 准教授 (40848727)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ロシア文化 / ロシア思想 / ジェンダー / コロンタイ |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、計画通り、アレクサンドラ・コロンタイを中心とした1920年代のボリシェヴィキの言説において、ジェンダーや身体に関するイデオロギーが、いかなる役割を果たか、ということを検討した。特に分析の対象としたのは、1921年と1922年の2回の党大会の記録や、コロンタイの論文と2つの未発表小説(①『父は消息を絶った』(未完)②妊婦エレーナの物語(タイトルなし))のマニュスクリプトである。考察の結果コロンタイの著作には「身体から精神への流れ」や「悪阻に苦しむ女性」といった身体的なテーマが、頻繁に扱われている事がわかった。本研究ではこれらを1920年代初期のコロンタイの政治的な敗北体験が、女性の身体表象に転換されたものと読みといた。また当時のいくつかの文献に10月革命当初の「栄光の日々」を振り返る記述があることにも着目した。Elithabeth Ankerは、現代左翼の政治のテクストには、過去に理想を求めるノスタルジックな傾向があり、このために彼らが現実変革の力を失ってしまっていることを指摘しているが、本研究では、この指摘を援用しつつ、コロンタイがノスタルジーを描いたことは、自身の敗北と、革命の理想の後退を受け入れつつある過程と読み解いた。 以上の研究成果は、2021年の国際学会ICCEESでの発表の内容と合わせて、英語の共著の一章 “Transforming Political Ideal into Melodrama”(仮)として、2023度中に出版予定である。 また22年度は、海外の研究者を招き、大阪大学で2度の学術イベント(セミナーとラウンドテーブル)を主催し、ロシア・ソ連におけるジェンダー表象を含む文化の諸相についての最新の知見を得る機会を設けた。(7月開催「プーチン時代のロシア映画:政治、利益、愛国」8月開催「ロシアにおける子供時代:昨日と今日」)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
年度初めの計画時に予定していた年度内の論考の完成が間に合わなかったこと、そして学務に予想以上に時間を割かねばならず、長期休暇を利用した海外での資料収集の予定を変更せざるを得なかったことがあった。この2つの理由から「やや遅れている」という状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
23年度も引き続き、ウクライナ戦争の影響でロシアへの渡航が困難なことが予測される。これにより、当初計画に含まれていた1930年代の研究に関しては、ロシアでの必要な資料収集ができないため、中心的な研究課題から外す必要が出てきた。よって、今年度も19世紀末ー1920年代のジェンダー表象分析を行う予定である。19世紀末の帝政時代の一次資料に関しては、フィンランドの国立図書館が多数保有しており、当地での収集予定している。 今年度の研究成果は、11月のアメリカの学会(ASEEES)での口頭発表や論考としてまとめる予定である。
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Causes of Carryover |
22年度の予算の多くは海外渡航費用に当てる予定だったが、年度はじめに予想していなかった学務に時間を割かねばならなかったことがあって、予定を変更せざるを得ず、予算が余ることとなった。 23年度は、2回の海外渡航(アメリカとフィンランド)、書籍の購入、携帯可能な軽量PCの購入、資料整理やシンポジウム開催のためのアルバイト雇用、その他、研究者を招聘する際の謝金、英語論文のネイティヴチェックや校閲のために費用を当てる予定である。
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