2020 Fiscal Year Research-status Report
P. Kropotkin's Anarchist Genealogy and Imagination: Translation and Transversality
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20K12829
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Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
小田 透 静岡県立大学, その他部局等, 特任講師 (50839058)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | クロポトキン / 相互扶助 / デヴィッド・グレーバー / アナキズム |
Outline of Annual Research Achievements |
「翻訳」と「横断」というキーワードを手がかりに、19世紀末から20世紀初頭における最大のアナキズム著作家であるP・クロポトキン(1842-1921)の多岐にわたるテクストとその影響圏を精緻に読解することを目指す本研究の令和2年度の成果は、表象文化論学会のニューズレター『REPRE』Vol. 41(2021年3月)に発表した研究のノート「グレーバーとクロポトキンをつなぐもの──相互扶助の倫理的感性」である。 本研究の目的のひとつは、複数の知的伝統や新たな学問的・言語的実践がせめぎあう世紀転換期の世界において、クロポトキンが、地理学をはじめとして、生物学や歴史学など、複数の領域を横断する脱領域的学者であったという比較論的視座に立ち、彼の思想に埋もれている批判的種子とユートピア的想像力を掘り起こすことであるが、本研究ノートは、クロポトキンのもっとも著名なテクストである『相互扶助論──進化の一要因』(1902年)に焦点を当てることで、「相互扶助」を歴史的に文脈化すると同時に、それをクロポトキンの思想内部に位置づけようとした。本研究ノートは、「相互扶助」という感性/実践/思想を、故デヴィッド・グレーバーの人類学的な思索に連なるものとして提示することで、その現代性を論じてもいる。 クロポトキンの思想を、アナキズムという限定的な文脈に回収するではなく、ロシア博物学における自然観の継承、社会ダーウィニズムの闘争中心主義にたいする批判と関連づける一方で、生物的社会的な与件である相互扶助の本能的な限界を意識的に克服し、相互扶助を自由な倫理にまで推し進めていくことが彼の議論の中核にあることを明らかにできたことが、本研究ノートの意義であり、令和2年度の最大の研究成果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
系譜学的な思想研究をその主要な領域とし、テクストの解釈学的精読をその主要な方法論とする本研究は、テクストの読解を主軸に据えるものであり、初年度はクロポトキンの出版テクストという1次資料の全面的な再読と精読に取り組みながら、クロポトキン研究やアナキズム研究という2次資料を精査する予定であったが、コロナ禍にともなうオンライン授業の実施をはじめ、さまざまな予期せぬ教育関連の業務によって研究時間が削られた結果、予定よりもやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目は、1年目の再読と精読を踏まえ、モスクワやアムステルダムなどのアーカイブを訪問し、クロポトキンの未刊行資料やアナキズムを含む社会思想の資料を開拓することを予定していたが、現在の状況では、国外でのアーカイブ研究は現実的に困難かもしれない。したがって、今年度は、昨年度からの再読と精読を継続しながら、国内外のオンライン学会で研究成果を精力的に発表していくとともに、学術誌への論文投稿を積極的に進めていく。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のなか国際学会がキャンセルされ、旅費として計上していた予算を消費しきれなかったため。
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