2023 Fiscal Year Annual Research Report
P. Kropotkin's Anarchist Genealogy and Imagination: Translation and Transversality
Project/Area Number |
20K12829
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Research Institution | University of Shizuoka |
Principal Investigator |
小田 透 静岡県立大学, その他部局等, 特任講師 (50839058)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | アナキズム / クロポトキン / 相互扶助 / 翻訳 |
Outline of Annual Research Achievements |
19世紀末から20世紀初頭における最大のアナキズム著作家であるP・クロポトキン(1842-1921)の多岐にわたるテクストとその影響圏を精緻に読解することを目指しながら、COVID-19の世界的流行によって進路変更──ヨーロッパのアーカイブでの文献の渉猟をとおしたクロポトキンのアナキズム思想の横断性と翻訳性の研究から、クロポトキンの横断的で翻訳的なアナキズム思想の日本語への翻訳──を余儀なくされた本研究の最終年度の成果にして集大成は、彼の主著『相互扶助論──進化の一要因』(1902年)の新訳の刊行である。
チャールズ・ダーウィンの進化論から、利己的な個人主義者たちによる闘争というホッブズ的世界観を引き出すトマス・ハクスリーの解釈に異を唱え、競争に匹敵する、それどころか、それをさえしのぐ進化の要因として協力を掲げ、動物にも人間にも、過去にも現在にも、未開社会にも現代社会にも普遍的に存在する相互扶助の感性と実践──とそれらの漸進的拡大と複層化──を論じた『相互扶助論』には、1890年から96年にかけて英国の総合雑誌『19世紀』に連載した8本の論文版、1902年の初版、1904年の改訂版、わずかに改訂をほどこし補遺をカットした1914年の廉価版があるが、学術的に校訂された版はいまだ存在しないと言える。
1904年版を底本とし、1914年版での改訂箇所も訳出し、英仏独露の種々のデジタル・アーカイブを利用することで、原著の誤植や参考文献の誤記を可能なかぎり取り除いた今回の新訳は、そのような間隙を埋める、学術性の高い翻訳である。近年の注目すべきイタリア語新訳(2020年)にも助けられた、本文と原注に登場する人名をほぼ網羅した人名索引、PM Press版(2021年)を拡張した事項索引、50頁におよぶ「訳者あとがき」は、クロポトキンの影響圏を読み解くという今後の仕事のための礎である。
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