2020 Fiscal Year Research-status Report
『法華験記』の思想的研究―在俗者教化と東アジア法華経信仰への位置付け―
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20K12830
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
市岡 聡 名古屋市立大学, 大学院人間文化研究科, 研究員 (80788795)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 法華験記 / 霊山院式 / 霊山院釈迦堂毎日作法 / 立山 / 蟹満寺 |
Outline of Annual Research Achievements |
10月31日及び11月21日に大津歴史博物館において『霊山院式』及び『霊山院釈迦堂毎日作法』を実見し、担当学芸員との意見交換を実施した。両史料を比較検討した結果、特に『霊山院式』は、実物の写真版は世に出ておらず、『大日本史料』において『霊山院釈迦堂毎日作法』と並べて掲載されていることから同時期にできたと考えられてきたが、筆跡や紙質などの違いから、成立時期を詳細に検討する必要性があることを認識した。また、『大日本史料』の『霊山院式』奥書が途中で翻刻されていないことも発見できた。さらに、この実見後に『霊山院式』の内容を精査したところ、同史料には源信作とするには問題のある表現がいくつかあることが判明した。令和2年度に両史料の所蔵者である聖衆来迎寺と交渉し、撮影許可を取得したので、令和3年度に撮影をし、両史料の成立と思想的背景を追究していきたい。 10月23日から10月26日にかけて、令和2年度調査予定であった富山県の立山へ赴き、富山県立山博物館、雄山神社中宮祈願殿、教算坊、芦峅寺閻魔堂、芦峅寺うば堂跡、雄山神社前立社壇、立蔵神社、念法寺、上市町の日石寺などの立山山麓にある立山信仰ゆかりの寺社の調査と、立山山頂の調査を実施した。この調査では数種の立山曼荼羅を実見し、立山地獄の信仰の様子や周辺寺院における立山に対する信仰についての知見を得ることができた。 令和2年度において、『法華験記』「第123山城国久世郡女人」を創建譚とする蟹満寺(京都府木津川市)に関する論文の作成を完了したので、令和3年度に『仏教史学研究』に投稿する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和2年度は、年度当初から新型コロナウイルスの影響を受け、現地調査や文献調査の実施が思うように進まない状況であった。そのような中、『霊山院式』と『霊山院釈迦堂毎日作法』に関する調査や、立山での現地調査を実施できたことは研究における大きな進展である。霊山院関係の調査では、史料所蔵者である聖衆来迎寺や『霊山院式』寄託先である大津歴史博物館の学芸員と知己になれたことは大きな収穫であった。また、富山県における立山信仰の調査では、現地における立山信仰の実際を肌で感じることができ、非常に有益であった。 一方、新型コロナウイルスの影響で、当初予定していた鳥取県の大山での現地調査ができなかったこと、聖衆来迎寺の撮影許可を得たにもかかわらず、新型コロナウイルス第三波の襲来によって撮影実施までに至らなかったことは残念な結果であった。特に、『霊山院式』と『霊山院釈迦堂毎日作法』の撮影は、研究の進捗に大きな影響を与えることになるので、コロナウイルス蔓延が一段落した暁には早急に実施したいと考えている。これまでに『霊山院式』の内容に関する詳細な検討は進展させているが、撮影までにさらに検討を進め、今後の研究を飛躍的に前進させる準備を行いたいと考えている。また、対面での研究会実施を目指して計画していたが、新型コロナウイルスの蔓延が想定以上に長引き、それを年度内に実施することができなかった。来年度の研究会については、今後も対面での実施は困難な可能性が高いことから、ZOOMでの開催を視野に入れて開催をしていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度では、前年度に進展した『霊山院式』の研究をさらに進展させ、本史料の思想的背景に関して研究会の課題とし、そこで出た意見も取り入れた論考を作成したいと考える。また、新型コロナウイルス終息後、『霊山院式』の写真撮影の実施、比叡山内にある霊山院跡の現地調査の実施をしたいと考える。 研究計画では、令和3年度に中国での現地調査を予定している。しかし、新型コロナウイルスの影響で、いつ訪中できるか不透明な状態が続いている。令和4年度以降の訪中の可否も現時点では不明瞭であるが、補助事業期間内の訪中を想定し、令和3年度の研究を進めていきたい。具体的には、五台山の地獄に関する日本国内での調査を充実させ、来るべき訪中に備える、中国における在俗者教化の調査、特に俗講の文献資料を行ない、日中の在俗者教化の理解の深化をしていきたい。
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Causes of Carryover |
令和2年度収支において次年度使用額が生じたのは、新型コロナウイルスの影響で予定していた現地調査をすることができかなったことが主な原因である。 令和3年度において、新型コロナウイルス蔓延が終息すれば令和2年度に使用できなかった額の使用も可能となるが、そうでない場合も想定し、文献資料による調査に重点を置いて研究を進めていきたいと考える。
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