2023 Fiscal Year Research-status Report
『法華験記』の思想的研究―在俗者教化と東アジア法華経信仰への位置付け―
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20K12830
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
市岡 聡 名古屋市立大学, 大学院人間文化研究科, 研究員 (80788795)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 地方における仏教信仰 / 立山信仰と立山地獄 / 在俗者の神仏に対する信仰 / 『法華験記』が受けた『法華伝記』からの影響 |
Outline of Annual Research Achievements |
『法華験記』第124話に登場する立山信仰及び立山地獄に関する発表を「神仏融合研究会」にて実施し(7月)、現地調査を8月に実施した。この発表では立山開山について、帝釈岳について、在俗者教化との関連について論じ、現地調査で自説の妥当性の確認を行なった。噴火活動が見られる場所を地獄と呼ぶ営為は、在俗者教化に密接に関係すると考えられることから、大分県中部地域及び日田玖珠地域にある火山地域を訪問し、現地で資料収集及び巡検を実施した。立山地獄と他の地域の地獄との比較検討は、地獄を用いた在俗者教化という視点では重要かつ意義深いものと考えている。他方、「地獄」が付けば全て同じというわけではない。そこで、日本全国にある「地獄」を含む地名に着目し、国土地理院地形図で「地獄」を含む場所を検索し、地形の確認作業を実施した。また、岡山市にある造山古墳の「地獄田」(12月)と愛知県東浦町にある「地獄谷」を巡検し、現地確認を行なった。 『法華験記』第126話に登場する乙寺に関する調査を、新潟県上越地方及び下越地方において実施した(5月)。乙寺については種々の論考があるが、現地における資料調査及び地形確認と『法華験記』第126話の精読等の作業から、乙寺が転々移転して現在地へと遷っていった可能性が高いことを確認した。 上記以外では、『法華験記』に登場する兵庫県にある雪彦山付近の巡検(8月)、滋賀県における観音信仰とそれに対する在俗者の信仰調査(6月)、三重県伊勢地域における西国三十三所巡礼と在俗者の信仰に関する調査(4月)を実施した。 東アジアにおける『法華験記』の位相と特質を明らかにするため、「『法華伝記』を読む会」に参加し、唐代に撰述された『法華伝記』にある「聴聞利益第十一」の講読を実施した。これにより『法華験記』に掲載された話で『法華伝記』から影響を受けたと考えられる話が複数存在することが確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
国内調査については、コロナ5類移行により多くの地域での調査活動を行なうことができた。これにより地方霊場と地方寺院、特に立山と乙寺に関する考察は大きく前進したと考える。他方、中国における調査は、いまだコロナウイルスに対する懸念が残るのと、調査活動の困難さから、依然として実施ができていない。東アジアと『法華験記』との関連性の検討については「『法華伝記』を読む会」の実施により前進させているものの、現地での巡検ができていないことから、進捗状況は上記区分にあると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウイルスの影響は以前に比べると格段に少なくなったが、中国国内での調査活動を実施は依然として厳しい状況にある。したがって、中国に関する調査は国内での文献調査を引き続き実施する。また、今年度も継続して「『法華伝記』を読む会」を開催・参加し、中国における法華経信仰と在俗者教化に対する理解を深めるとともに、『法華験記』への影響関係を引き続き調査していきたい。 国内での調査は『法華験記』に記載された地方霊場、地方寺院に関する説話の調査・検討を中心に実施するとともに、比叡山横川にあった霊山院の資料調査及び現地巡検を実施していきたい。これにより、『法華験記』に通底する在俗者教化の思想を検討していきたい。また、中央・地方に限定することなく在俗者の信仰、特に観音信仰についても検討できればと考えている。
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Causes of Carryover |
令和5年度収支において次年度使用額が生じた理由は、令和3年度に実施予定だった中国渡航費用の不執行が最大の原因である。新型コロナウイルスの猛威がある程度収まったとはいえ、渡航による感染リスク等の障害は今なお懸念され、また、中国国内における調査活動実施に対して、昨今懸念すべきこともあることから、中国における信仰に関する調査は、日本国内での文献資料調査によらざるを得ない。 他方、日本国内における調査については、新型コロナの5類移行によって障壁がなくなったので、令和6年度も積極的に行っていきたいと考えている。
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