2021 Fiscal Year Research-status Report
Political subjects and Etienne Balibar's philosophy in the age of French declonization
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20K12832
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Research Institution | Kobe City University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
太田 悠介 神戸市外国語大学, 外国語学部, 准教授 (70793074)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 政治主体 / エティエンヌ・バリバール / 脱植民地化 / ポスト・コロニアリズム / 反人種主義 / 人種主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、アルジェリア戦争(1954-1962)を画期とする脱植民地化時代以降のフランスにおける政治主体について、現代フランスの哲学者エティエンヌ・バリバール(1942-)を主たる参照軸として考察することである。 研究実施計画にしたがって、本年度は『大衆の恐怖』、『世界』、『複数の普遍』など主として1990年代以降のバリバールの著作の検討を通じて、著者の政治主体論の解明を進めた。バリバールの政治主体論の形成においては、マジョリティとしてのフランス人民衆層とマイノリティとしての旧植民地出身者とその子孫がフランス本土に混在するという脱植民地期フランス特有の状況が重視されていることを確認した。旧仏領植民地出身者とその子孫をめぐっては、フランスではとりわけ1980年代から移民労働者の問題、公立学校でイスラム風のスカーフを着用する女子生徒の問題などが取り上げられてきた。これらの問題を扱うバリバールの論考を収集、検討するとともに、バリバール以外の論者による関連文献についての検討も行なった。 以上の研究内容を踏まえて、本年度はバリバールの人種主義論および反人種主義論についての研究論文を執筆した。2020年にアメリカから広がった「ブラック・ライヴズ・マター」運動はフランスにも影響を及ぼし、黒人に対する反人種差別運動があらためて高まりをみせている。昨年度行なった口頭発表をもとに、論文ではフランスのBLM運動の現状を紹介したうえで、バリバールとアメリカの社会学者イマニュエル・ウォーラーステインとの共著『人種・国民・階級』(1988)以降のバリバールの人種主義論および反人種主義論がもつ現代的な意義について考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍により、昨年度と同様にフランスへでの資料調査を取り止めた。雑誌論文などの二次文献については国内の図書館での複写サービスとオンライン雑誌を利用して対応した。そのため資料収集については当初の研究計画の一部変更を余儀なくされたものの、研究課題の進捗状況には大きな影響はなかったと判断し、上記の評価とした。
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Strategy for Future Research Activity |
「研究実績の概要」で言及した公立学校におけるスカーフ問題についてはフランスで多様な議論があり、また日本でもすでに先行研究の蓄積が相当程度ある。本年度はこの問題についての資料の収集を一定程度進めることができた。次年度もこの点をめぐるバリバールの著作、論文の精査を継続して行い、雑誌論文などで研究成果を公表する予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により国内学会の参加とフランスでの現地調査を中止したため、当初計画で計上していた旅費の見込み額と実際の執行額に差が生じた。状況が許せば次年度の海外出張を一部延長して実施し、未使用額はその経費に充てる予定である。
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