2020 Fiscal Year Research-status Report
Study on Intellect and the Categories of Being in Late Antiquity
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20K12833
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
西村 洋平 兵庫県立大学, 環境人間学部, 准教授 (90723916)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 新プラトン主義 / ペリパトス派 / カテゴリー論 |
Outline of Annual Research Achievements |
古代ギリシアから、中世・近世・現代に至るまでの哲学史をたどるときに欠かせないテーマの一つに「知性」(nous)がある。知性をめぐる議論は、人間が何かを知るとはどういうことか(認識論)、そして知られる世界とはどのようなものなのか(存在論)という問いを中心に展開された。本研究は、そうした思索の出発点でもある、アリステレス知性論をめぐる古代末期の論争に、これまであまり注目されなかった「存在のカテゴリー」という観点からアプローチすることで、その哲学史的な意味・意義を再検討することを目的としている。 当該年度は、問題の出発点となる古代末期のペリパトス派の議論を取り上げ、「能動知性」の役割を検討した。能動知性を神とするアレクサンドロスの見解を、De intellectu、De anima、Quaestionesといった著作を中心に取り上げ、その認識論・存在論的役割を調べた。また、2020年に刊行されたR. Chiaradonna and M. RashedによるBoethos De Sidon: Exegete D'Aristote et Philosopheを読み、アレクサンドロス以前のペリパトス派による素材・形相論や実体論についての知見を深めた。とくに形相の把握としての知性認識や、「普遍」の存在論的身分を中心に取り上げて考察した。個物が普遍に先行するとするペリパトス派の立場について、普遍は個物の集合(特定の述語づけの外延)だという意味でとるボエトスら初期ペリパトス派と、個物を定義づける本質的特徴(ある個物を定義する概念などの内包)とするアレクサンドロスの立場を対比的に検討し、両者の立場を整理した。古代末期における『カテゴリー論』をめぐる論争の端緒ともなったボエトスの見解の精査が、当該年度の大きな成果であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Covid19の影響で、予定していた、エディンバラ大学(Kupreeva教授)への訪問研究が実現しなかった点で、予定通りとは行かなかった。また学会等の開催も変則的(中止・延期)となり、研究発表の見通しが立たなかったため、いくつかの成果は次年度(21年度)に発表することとなった。しかし、プロティノス以前のペリパトス派の研究については、Chiaradonna and Rashed (2020)の成果もあり、大いに進展し、今後の研究に役立つものとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度の、ペリパトス派の認識論や、『カテゴリー論』をめぐる存在論の基礎研究を踏まえ、今後は新プラトン主義のプロティノスを中心に研究を進める。 具体的には、能動知性が果たしていた認識論的な役割をプロティノスはなぜ必要としなかったのかを明らかにする。経験主義的な知性論と対照的なのが、知性認識されるものが先天的に備わっているとする、プラトン主義的な想起説の立場である。可能知性が現実に活動するものとなるというペリパトス派の知性論と根本的に異なる点は何かという問いに明確な答えを与える。 さらに、知性論と『カテゴリー論』はどのような関係にあるのかという問題に取り組む。アレクサンドロスは、形相への言及がない『カテゴリー論』の本質存在規定と『形而上学』中心巻の形相論を整合的に解釈した。アレクサンドロスの形相論を軸に、個物や種・類、また知識成立のために重要となる本質的な種差の存在論的身分を明らかにし、それが知性論とどのように接続しているのか明らかにする。 前年度の研究成果については、いくつかの学会で発表し論文としてまとめる予定である。Covid19の状況次第では、海外の研究機関での訪問研究、国際学会での発表を行う。
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Causes of Carryover |
Covid19の影響により、予定していた海外訪問研究が実施できなかった。次年度に渡航可能となれば訪問研究のための旅費として使用するか、実現が難しい場合は、Zoom等のオンライン研究会を実施するためのスピーカー等の購入にあてる計画である。
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