2020 Fiscal Year Research-status Report
近代日本における教祖像形成に関する総合的研究--最澄・空海・親鸞・日蓮--
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20K12836
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Research Institution | Otani University |
Principal Investigator |
大澤 絢子 大谷大学, 文学部, 研究員 (50816816)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 教祖イメージの形成 / 仏教文学 / 近代歴史研究 / 近代仏教 / 表象文化 / 大衆メディア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、史実と創作の双方を通して教祖像が教団外部で構築されていく過程を明らかにすることで、近代日本における宗教受容の実態解明を目指している。 2020年度は、親鸞像の形成過程を中心に、①資料収集・整理および研究成果発表②関連領域の研究者との共同研究会の実施③近代仏教研究の最新の成果についての書評を行った。年度の後半からは、日蓮像の形成について考察するため、資料収集を開始している。 ①ではまず、親鸞の史実に関する歴史研究の成果と、親鸞を題材とした文学作品の年代別目録リストを作成した。その上で、主に「親鸞の妻帯」をめぐる近代の歴史研究と近代文学の記述と年代的傾向を検証し、恵信尼が親鸞の妻として確定されていくプロセスを明らかにして論文としてまとめた(掲載誌の刊行は次年度)。また、大衆文学と親鸞像との関わりに関して、吉川英治の親鸞像と日本主義思想との関係を検証し、その成果を石井公成監修/近藤俊太郎・名和達宣編『近代の仏教思想と日本主義』(法藏館、2020)にて発表した。さらに、本研究の主題の一つである物語と日本宗教の関係についての解説をまとめ、岩田文昭・碧海寿広編『知っておきたい日本の宗教』(ミネルヴァ書房、2020年)に執筆者として加わった。②では、主に大正期の出版メディアにおける宗教言説について、関連する領域の研究者との意見交換を行ない、共同研究会「仏教文化におけるメディア研究会」にて「新聞小説と親鸞」(2020年3月27日)との題で報告を行った。③については、僧侶の妻帯に関する事象についての最新の成果、計3冊の書籍の書評を執筆した。この作業により、僧侶の妻帯という親鸞像に特徴的な事象から、日本仏教における現代的な課題について検討することができた。 年度の後半からは、日蓮を取り上げた文学に関する資料を収集し、親鸞像と日蓮像との比較検討の準備に取り掛かっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は、新型コロナウイルス流行による影響から、図書館等での資料収集や調査が計画通り進まなかったものの、研究課題に関わる論文を執筆・発表することができ、次年度の研究に向けた資料の収集と考察にも着手することができた。 また、研究会での報告や、関連分野の研究者との意見交換・情報収集は、オンラインを活用するなどして研究を遂行することができており、おおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、近代日蓮像変遷の総合的検討および、空海・最澄像の位置付けの検証に向けた準備作業に取り掛かる。 年度の前半では、①日蓮を取り上げた文学に関する資料を収集し、村上浪六等の文学作品の言説分析による親鸞像と日蓮像との比較検討を行う。次に、②歴史研究の成果における「日蓮-親鸞」対比論の実態解明を行う。ここでは、歴史学者たちの親鸞像と日蓮像の特徴と相違を、新聞や雑誌等のメディアでの言説傾向から整理する。資料収集にあたっては、国立国会会図書館のデータベースや各新聞社のデータベース等を活用し、「日蓮-親鸞」対比論および「日蓮主義」や「親鸞主義」の言葉が集中する時代を割り出し、時代的な傾向を同時期の文学作品との関連から検証する。 年度の後半以降は、空海像と最澄像との比較に着手する。明治末から昭和期に刊行された歴史研究の成果および文学作品において、最澄と空海を対応させる語りがいつ、どのように始まったかを明らかにする。そのために、前近代における空海の代表的伝記を軸に、空海に関する近代の代表的な文学作品との比較検討を行い、空海が起こした奇跡の強調(「空海の天才化」)と、空海の神秘的要素を排除する(「空海の人間化」) のプロセスを歴史研究・文学双方の記述の言説分析から明らかにする。 最終年度は、空海像と最澄像の形成過程について、得られた結果を論文としてまとめる。その上で、これまでの成果を統合し、近代日本における歴史研究と文学作品の具体的言説を対照させたデータベースを作成する。また研究の総括として、近代の教祖像の大衆化プロセスに関する国際シンポジウムを開催することを計画している。
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Causes of Carryover |
2020年度は、新型コロナウイルスの流行の影響により、当初の計画通り図書館等での資料収集・出張を伴う調査ができず、参加予定であった学会や研究会もオンライン開催または中止が相次ぎ、旅費や参加費の支出がなかったため、当初の計画よりも支出が少なくなった。 次年度以降は、引き続き資料収集と整理を進め、考察によって得られた成果を学会や研究会で報告していく。そのため、複写費、旅費等に使用予定である。
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Research Products
(5 results)