2021 Fiscal Year Research-status Report
近代日本における教祖像形成に関する総合的研究--最澄・空海・親鸞・日蓮--
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20K12836
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
大澤 絢子 東北大学, 国際文化研究科, JSPS特別研究員(PD) (50816816)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 教祖像 / 仏教文学 / 近代歴史研究 / 近代仏教 / 表象文化 / 大衆メディア / 日本文化史 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、①近代日蓮像変遷の総合的検討②空海・最澄像の位置付けの検証に向けた準備作業に取り組んだ。 ①に関しては、明治以降に日蓮を取り上げた文学に関する資料を収集し、福地桜痴作の歌舞伎「日蓮記」(1894年上演)を対象として、役者や近代の演劇空間との関連から日蓮像の近代的展開を考察し、学会で発表した(「演じられた教祖ーー福地桜痴『日蓮記』に見る日蓮歌舞伎の近代」」第29回、日本近代仏教史研究会研究大会2021年10月)。考察を通して、伝記や小説などで「語られた」教祖だけでなく、教祖が教団の外側で、生身の人間によって「演じられた」際の変化を問うことで、教祖像形成の過程の実態を多面的に明らかにすることができた。また、親鸞の性欲に関する歴史研究と文学の相互関係の有無を検証してその結果を発表(「性に悩む親鸞像の形成ーー近代日本における歴史研究と文学の相関」第80回日本宗教学会、2021年9月)し、親鸞の家族や性欲の問題について論文をまとめた(「妻帯する親鸞――近代日本の僧侶家族論」『大谷大学真宗総合研究所研究紀要』第39号、2022年3月)。さらに、親鸞像と日蓮像の形成過程の比較を行い、共著として論文をまとめた(「日本における仏教文化と聖者像に関する総合的研究」『世界仏教文化研究論叢』第60集、2021年3月)。 ②では、空海像と最澄像との比較に着手し、明治末から昭和期に刊行された歴史研究の成果および文学作品において、最澄と空海を対応させる語りがいつ、どのように始まったかを検証する作業に取り掛かった。そのためにまず、前近代における空海の代表的伝記を軸に、空海に関する近代の代表的な文学作品を収集、比較検討に取り組んだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度は、新型コロナウイルス感染症の流行による影響から、図書館等での資料収集や調査が計画通り進まなかったものの、研究課題に関わる成果を発表して論文を執筆することができた。関連分野の研究者との意見交換・情報収集についてもオンラインを活用するなどして研究を遂行することができた。 しかしながら、演劇と日蓮像に関する資料収集や調査・考察に時間を要したため、最澄や空海のイメージ形成に関する資料の収集・考察に多くの時間を割くことができなかったことから「やや遅れている」と判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である2022年度は、空海像の形成過程の検証を行いつつ、歴史小説や演劇といった、大衆文化のなかの教祖像という、より広い視点から考察を行う。 空海に関しては、収集した資料や研究を元に近代の代表的な文学作品との比較検討を行い、空海が起こした奇跡の強調(「空海の神秘化・天才化」)と、空海の神秘的要素を排除するプロセス(「空海の人間化」) を歴史研究・文学双方の記述の言説分析から明らかにし、これまで検証した親鸞と日蓮のイメージ形成との比較を行う。ここで得られた成果は、年度末に開催予定の国際シンポジウムにて報告する。その際、最澄像と空海像の位置づけにも注目し、最澄と空海を対応させる語りの起源および文学上での最澄と空海のペアの記述や時代的変遷にも焦点を当てる。また、教祖像の大衆化として、近代歴史研究の成果と司馬遼太郎などの作品の空海像との対応関係を明らかにする。 最後に、これまでの成果を統合し、研究の総括として近代の教祖像の大衆化プロセスに関する国際シンポジウムを東北大学にて開催し、会議の内容を論集としてまとめる作業を行う。
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Causes of Carryover |
昨年度に引き続き、今年度も新型コロナウイルス感染症の流行の影響により当初の計画通り図書館等での資料収集・出張を伴った調査ができず、参加予定であった学会や研究会もオンライン開催が相次ぎ、旅費や参加費の支出がなかったため、当初の計画よりも支出が少なくなった。 また、最終年度である次年度は、本研究の総括として海外の研究者1名を招いての国際シンポジウムの開催を計画していたが、予定していた研究者の他に当研究課題に関連する研究を行なっている研究者をもう1名招くこととした(両研究者には内諾済み)。そのため、海外からの招待講演者を2名とし、次年度に繰り越す経費はその旅費等に充てる予定である。なお、今後、新型コロナウイルスの流行等により対面での国際シンポジウムの開催が不可能と判断される場合にはオンライン開催へと切り替え、会議内容の報告書の作成や追加資料の購入などに経費を充てる。
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Research Products
(6 results)