2020 Fiscal Year Research-status Report
Inclusive Community in the Ecumenical Movement
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20K12838
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
藤原 佐和子 同志社大学, 研究開発推進機構, 嘱託研究員 (20735295)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | キリスト教 / エキュメニカル運動 / ジェンダー正義 / セクシュアリティ / アジア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、20世紀以降のエキュメニカル運動における「教会の一致」が「包括的共同体」(インクルーシブコミュニティ)に向けて拡充される思想的変遷と、その波及効果に関する検討を目的とする。以下に、2020年度の主要な研究業績を挙げる。 第一に、世界教会協議会(WCC) の事例を中心とする「女性の按手」をめぐるエキュメニカルな議論の歴史的経緯、初期の主要文書の分析を通して、1960年代に「女性の按手」が按手からの女性の排除の問題として捉えられようとしていた点や、1970年代末期には、女性の完全な人間性を軽視した「教会の一致」は不可能との長年の議論が繰り返し訴えられる必要があった点について確認した。特に重要なのは、1970年には既に按手からの女性たちの排除に賛成する人々こそがその主張に関する立証責任を負うようになっていた点である。 第二に、1990年代以降の「エキュメニカルの冬」と呼ばれる運動の停滞期に至るまでの歴史的経緯、主要な議論の分析を通して、「女性の按手」や同性愛をはじめとするヒューマンセクシュアリティの諸課題が「教会の一致」の重大な妨げと見なされてきた点をはじめとする主要な論点について検討した。2011年に国連人権理事会で性的指向と性自認に関する権利に関する決議が行われて10年が経つ。現在の視点からの再検討により、「エキュメニカルの冬」はジェンダー正義をほとんど反映しない「教会の一致」のモデルの破綻を示すものに過ぎず、より包括的なモデルが大胆に思い描かれるようになった一つの転換期として肯定的に評価することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、海外における研究調査の計画をすべて中止した。具体的には、2020年6月下旬にシグトゥーナ(スウェーデン)で開催予定であったリセプティブ・エキュメニズム(receptive ecumenism)に関する国際会議が中止され、同年9月上旬にケララ(インド)で予定されていたアジア・キリスト教協議会(CCA)第15回総会が延期となった。しかしながら、研究対象であるエキュメニカル運動そのものがオンラインに活路を見出したことを理由として、2020年度の研究を遂行する上で特段の問題は生じなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度も引き続き海外における調査の見通しが立たないため、オンラインでの研究機会を積極的に利用する。例えば、2021年4月から6月上旬にかけてエキュメニカル運動に参加する研究者らを対象とした世界教会協議会(WCC)ボセー・エキュメニカル研究所(スイス)のオンラインプログラムを通して、最新資料にアクセスし、週1回の頻度で諸外国の研究者らとの議論に参加することができている。2021年度は、信徒の参加(lay participation)についての1950年代を中心とする議論、ヒューマンセクシュアリティについての1990年代以降の議論を整理していく計画である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、国内外における出張の予定をすべて中止・延期としたため、2020年度は旅費の執行を行わなかった。国内においては学会の開催中止や、学術誌の出版の遅延などが生じていることから、今後は、当初の予定よりも多く英文校正費を執行し、国外の学術誌への論文投稿を積極的に行う計画である。
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