2020 Fiscal Year Research-status Report
フランス精神分析における「享楽」の概念の再検討、およびその思想的位置づけの試み
Project/Area Number |
20K12840
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Research Institution | Kyoto Seika University |
Principal Investigator |
春木 奈美子 京都精華大学, 共通教育機構, 研究員 (60726602)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 享楽 / 女性のセクシュアリティ / 母娘関係 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、フランスの精神分析家ジャック・ラカンが示唆的な言及を残しつつも、それについて系統立てて論じることも、症例を収集することもなかった「前エディプス的母娘関係」とそれが「女性のセクシュアリティ」に及ぼす影響を解明しようとするものである。そうした作業を通じて、ラカンによって導入された「享楽」の概念を再検討し、最終的には思想史の中に明確に位置付けていくことを目指す。 研究第一年目は、精神分析家フランソワーズ・ドルトによる「女性のセクシュアリティ」に関する論考を整理していく作業を中心に行った。ドルトは、ラカンが「女性」について深い考察を手がけるようになるきっかけを与えた人物のひとりであるが、彼女は自身の豊富な臨床経験から大胆な考察をおこなっている。またこれ加え、前エディプス期の母娘関係の困難が、成人した娘のセクシュアリティに強烈な影響を与えた事例など、理論化が待たれる臨床素材の収集に努めた。 こうした作業を通じて見えてくるのは、プレエディプスが問題となる女児のケースでは、言語による分節化を通して、比較的早期に快方に向かうが、しかし成人女性患者となると、治療が困難を極めるということである。こうした惨禍を収拾するために、前期ラカンとともに「父の機能」にしたがえばよいとは言えない。この意味で、今後本研究を進展させていくなかで、理論的側面のみならず、同時に新たな臨床的応用可能性が引き出されることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルスの影響で、当初予定していた国外での発表・調査等は延期することになったものの、国内からもアクセス可能な資料の範囲内で、現時点ではおおむね順調に進展していると言える。またパンデミック状況下でも継続してきた臨床活動から、本研究の問いである母娘関係の臨床的実相についての考察も深めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究第一年目に予定しながらも新型コロナウイルスの影響により延期していた在外活動を、研究第二年目以降は、渡航可能な状況が確保できればすみやかに着手できるよう備えつつ、国内での研究活動をさらに充実させ、オンラインでの発表等を含め、研究成果の発表を重ねていく。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの影響で、当初予定していた在外研究を開始できなかったことにより、研究費の大部分をしめていた旅費等が次年度に繰り越しとなった。次年度以降、感染状況が収まり渡航可能となった時点で、在外研究にすみやかに着手する。
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