2020 Fiscal Year Research-status Report
A Multifaceted Study of the Expressions and Functions of Socio-Political Satires in Operettas in German-Speaking Areas during the Interwar Period
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20K12842
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
小川 佐和子 北海道大学, 文学研究院, 准教授 (90705435)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | オペレッタ / ワイマール文化 / ハプスブルク帝国 / 多民族表象 / 世紀末ウィーン / 笑い / アイロニー / メロドラマ |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は、オペレッタにみられる社会・政治諷刺における創作側と聴衆側の相互作用に関して、1920年代から30年代にかけての戦間期ベルリン・オペレッタを射程として研究を進めた。この時代区分は、オペレッタ作曲家の第三世代がベルリンを拠点に活躍した時期であり、オペレッタの「モダニズム」が加速した時期でもある。今年度は特にベルリンを舞台に、オペレッタの歴史におけるこの「モダニズム」の実態に注目し、オペレッタを十把一絡げに「大衆娯楽」と位置づけるのではなく、メロドラマ化する情動的な路線と自己パロディ化する諷刺的な路線という、二つの相反する方向性が20年代後半以降のオペレッタに顕著となってきたこと、それがナチの台頭により一元化されていく過程まで(すなわちそれはオペレッタの終焉を意味する)を検討し、論文にまとめた。本研究成果は、社会的・政治的・文化的パロディに満ちたオペレッタが激動の戦間期においてどのように諷刺を機能させていたのか、生きた舞台上で機能する諷刺によって作品をどのように自己反省的に作り変えてきたのかを明らかにし、大衆の代弁者としてオペレッタが果たした役割の一端を解明した。 他方、今年度はコロナ禍により当初計画していた海外出張が不可能だったため、現地アーカイブ調査に基づく研究は来年度以降に持ち越した。代わりにモダン・オペレッタの系譜をたどるべくハプスブルク帝国時代のオペレッタを研究対象に据え、それが超国家的・多民族的性格を有していたことに着目し、諸民族融和という理念と現実が市民の娯楽文化の代表であるオペレッタにおいてどのように表出したのか、文化史的に問う論文を発表した。具体的には、帝国表象の縮図として機能する《こうもり》を対象に、多民族帝国における遠心力と求心力のせめぎ合いを解釈し、さらに帝国の「内部」であり「外部」でもあるポーランドやバルカン諸国のオペレッタ表象を検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度に予定していたベルリン芸術アカデミーにおける集中的な調査と、初年度にあたりInternational Federation for Theatre Researchにおいて情報収集とネットワーキングを進めておく計画は、コロナ禍により実現することができなかった。ただし、インターネット上で閲覧・収集可能なデジタル・アーカイブを活用し、本研究課題に必要な同時代の音楽雑誌や大衆娯楽雑誌、新聞の批評記事を分析することができ、日本でも入手可能なオペレッタの二次文献、視聴覚資料および台本を可能な限り収集した。以上の資料・文献に加え、オーストリア国立演劇博物館・国立図書館、ウィーン大学図書館、フォルクスオーパー・アーカイヴに関しては、これまでに基本資料の収集はある程度完了していたので、それらを活用して研究を進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究実績の概要および現在までの進捗状況に記載したように、コロナ禍により当初の研究計画の変更を迫られている。国際会議に関してはオンラインで開催されることが定式化し、参加することに支障はないが、現地で直接関係者と対面してネットワークを広げることは実質的には困難な状況である。また、デジタル・アーカイブを活用することで、ある程度は網羅的な資料収集ができるとはいえ、本研究課題に関しては海外における現地アーカイブ調査とそれに基づく成果発表が当初の研究計画通り実現できないこと、海外におけるオペレッタの実際の上演を検証できないことは大きな障壁であり、予算に関して大幅な繰越をした。研究成果の発表方法も含めた研究計画の変更、場合によっては研究期間の延長を検討している。 そうした状況下ではあるが、現状を考慮して実施可能な今後の研究に関して、当面は以下の点について研究を進めておく。まず、オペレッタの機能である「諷刺」と「パロディ」をめぐる理論的枠組を明確にする。オペレッタにおいて大衆が権力・権威を反転させる物語構造や男性社会に異議申し立てをする女性キャラクターの機能、オペレッタにおける喜劇役者の「笑い」と「アイロニー」の役割、古典をパロディ化する自己反省的作用を検討する。以上の理論的枠組を踏まえた上で、第一次大戦後およびナチ台頭以後の上演時の時代背景や各劇場の伝統、各都市の演劇的状況を調査し、個々のオペレッタで描かれた諷刺の意味を精査する。 また、オペレッタから演劇や映画等へのジャンルを超えた影響を考察する。舞台芸術・視聴覚文化の研究領野において、散発的に遂行されてきたオペレッタに関わる研究成果を取り入れ、オペレッタのジャンル横断的な創造の協働性を明らかにしていく。 いずれもコロナ禍においても実施可能な研究であり、将来的な海外調査の下地となる基礎研究を進めておく。
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Causes of Carryover |
研究実績の概要等に記載したように、コロナ禍により当初の研究計画の変更を迫られた。国際会議に関してはオンラインで開催されることが定式化し、参加することに支障はないが、現地で直接関係者と対面してネットワークを広げることは実質的には困難な状況である。また、デジタル・アーカイブを活用することで、ある程度は網羅的な資料収集ができるとはいえ、本研究課題に関しては海外における現地アーカイブ調査とそれに基づく成果発表が当初の使用計画通りに実現できないこと、海外におけるオペレッタの実際の上演を検証できないことは大きな障壁であり、予算に関して大幅な変更が生じ、初年度の予算の大部分を次年度に繰り越した。 次年度も引き続き海外出張の見込みは立たないが、日本において実施可能な研究課題に取り組み、必要な資料収集を継続しつつ、国内の関連学会や上演・シンポジウム等が対面で行われる場合には可能な範囲で国内出張を行い、コロナ以後の海外調査および成果発表の下地となる基礎研究を進めておく。
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Research Products
(3 results)