2020 Fiscal Year Research-status Report
〈驚異〉のアメリカ視覚文化史の再構築―文学から映画へのメディア横断的探究
Project/Area Number |
20K12845
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
川本 徹 名古屋市立大学, 大学院人間文化研究科, 准教授 (10772527)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 映画 / 驚異 / 視覚文化 / マジック |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、〈驚異〉をめぐるアメリカ視覚文化史を、文学から映画に軸足を移しつつ、従前よりも包括的に再構築することにある。初年度にあたる本年度は、基礎文献の広範な渉猟につとめるとともに、映画と19世紀大衆文化、特にマジックについての集中的なリサーチをおこなった。映画とマジックに関する古典的研究としては、エリック・バーナウの『映画と魔術師―シネマの誕生物語』(原著刊行は1981年)が挙げられるが、近年、CGという映像魔術の台頭を受けて、映画前史・映画史初期と現代をともに視野に入れて、映画とマジックの関係を再考する研究が急増している。また、こうした研究においては、映画のもたらす〈驚異〉がこのメディアに本質的に潜むトリック的性質と関連づけて考察されている。そのさい特に重要視されるのは、アナログ映像のトリックとデジタル映像のトリックの質的差異である。以上のような研究の潮流を踏まえつつ、先行研究ではまだ取り上げられていない近年のデジタル・ミュージカル映画やアニメーション映画を中心に、21世紀映画のマジックと〈驚異〉に関する独自の調査をおこなった。デジタル技術と〈驚異〉の関係性は本研究の主要テーマのひとつであり、初年度にこのテーマについてある程度リサーチが進んだのは大きな成果と言える。この成果の一部は「ア・ミリオン・ワンダーズ―『グレイテスト・ショーマン』と魔術と詐欺の視覚文化」と題した論文にまとめ、名古屋市立大学大学院人間文化研究科紀要『人間文化研究』35号に発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は新型コロナウイルス感染症の拡大の影響で、当初予定していたアメリカの映画アーカイヴやその関連施設での実地調査は中止せざるをえなかった。その点が惜しまれるが、一方で先行研究の再精査や映画テクストの分析に多くの時間を注ぎ込むことが可能になり、その成果の一部を論文にまとめることができた。総合的に見て、研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
海外リサーチがいつ遂行できるようになるか未定であるため、引き続き国内で入手可能な一次文献、二次文献の仔細な分析につとめたい。予定している研究テーマとしては、実写映画とアニメーション映画の起源の再考察、1950年代・60年代のアメリカ小説と映画の比較考察がある。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の拡大の影響で海外リサーチを実施せず、代わりに一次資料、二次資料の広範な渉猟をおこなったが、それでも多少の未使用額が生じた。次年度も海外リサーチが遂行できるか未明であるが、研究が滞ることのないよう、研究計画の後半のテーマを先取りしつつ、これに関連する資料の購入に費用を当てる予定である。
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