2022 Fiscal Year Research-status Report
海を渡るオペラ:1920年前後の白系ロシア人歌劇団に関する国境横断的研究
Project/Area Number |
20K12851
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Research Institution | Nagoya College of Music |
Principal Investigator |
森本 頼子 名古屋音楽大学, 音楽学部, 非常勤講師 (50773131)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | オペラ / 巡業 / 白系ロシア人 / 来日ロシア人 / 日本オペラ史 / 上海租界 / オペラ文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度も、「ロシア大歌劇団」の日本公演(1919、21年)についての調査を行った。昨年度から継続している関西公演に関する資料調査を進め、関西で刊行された新聞雑誌や公演資料をもとに、関西公演の詳細を明らかにした。その成果は『セーヴェル』(ハルビン・ウラジオストクを語る会)で論文として発表した。また、国際音楽学会東アジア大会(IMSEA)にて、「ロシア大歌劇団」のワールド・ツアー(1919~22年)について英語で発表した。同歌劇団が日本、上海、ニューヨークなどで特色あるオペラ上演を行ったことを、各国の資料をもとに浮き彫りにし、20世紀前半のロシア人の世界的なオペラ活動に注目することの意義を国際的にアピールすることができた。 そのほかに、「グルック・シンポジウム:オペラ《オルフェーオとエウリディーチェ》とその周辺」(早稲田大学総合研究機構オペラ/音楽劇研究所主催)で、18世紀ロシアにおける改革オペラ上演に関する発表を行い、パネリストらと議論することで、オペラ文化の伝播と受容について国境横断的に研究することの重要性を確認した。 「ロシア大歌劇団」の上海での活動についても、引き続き調査を進めた。上海の劇場文化に関する先行研究の読解のほか、中国語新聞『申報』の紙面調査を行った。また、上海フランス租界におけるラジオ音楽放送について、当地のフランス語新聞などをもとに調査し、1930~40年代に、上海でロシア音楽が広く受容されていた実態を明らかにした。その背景には、「ロシア大歌劇団」をはじめとする、上海で活動した白系ロシア人芸術家の存在があることが浮かび上がった。これらの成果は、共編著『上海フランス租界への招待――日仏中三か国の文化交流』で論文として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ロシアとウクライナの戦争を受けて、今年度もロシアに渡航することは断念した。その一方で、論文や書籍の刊行、学会発表などで、これまでの研究成果を着実に発表できていると評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
4年目もロシアへの渡航は難しいかもしれないが、「ロシア大歌劇団」が巡業した上海やアメリカで資料調査を行いたいと考えている。特に上海は、コロナ禍によるさまざまな規制が緩和されたので、ぜひ渡航して蔵書楼などで当時の史料を調査したい。また、「ロシア大歌劇団」が本領としたロシア・オペラ(ムソルグスキーやチャイコフスキーらのオペラ)の上演の実態について調査し、同歌劇団が「ロシア人として」どのようなオペラ活動を展開したのかをあらためて検証する。さらに、同歌劇団の花形歌手であったブルスカヤ(のちにメトロポリタン・オペラの歌手になった)の活動についても再検討し、白系ロシア人のオペラ歌手のキャリア形成に、巡業歌劇団の活動がどのようにかかわったかを明らかにしたい。
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Causes of Carryover |
ロシアとウクライナの戦争により、ロシアでの資料調査が行えなかった。一方で、コロナ禍の世界的な規制も緩和されつつあるので、今後は海外および国内での資料調査を積極的に進め、残りの助成金を有効に使用したい。
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