2023 Fiscal Year Research-status Report
海を渡るオペラ:1920年前後の白系ロシア人歌劇団に関する国境横断的研究
Project/Area Number |
20K12851
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Research Institution | Nagoya College of Music |
Principal Investigator |
森本 頼子 名古屋音楽大学, 音楽学部, 非常勤講師 (50773131)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | オペラ / ロシア・オペラ / 白系ロシア人 / 来日ロシア人 / 日本オペラ史 / メトロポリタン・オペラ |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、ロシア大歌劇団による「ロシア・オペラ」上演が、日本、上海、アメリカでどのように行われたのかを調査した。同歌劇団は、イタリアやフランスの名作オペラのレパートリーをそなえていたが、10作におよぶロシア人作曲家によるオペラを上演したことは、これまであまり注目されてこなかった。この点についてあらためて調査したところ、同歌劇団は、ロシア・オペラ上演で本領を発揮し、各地の劇場文化に大きなインパクトを残すとともに、20世紀前半の各国におけるロシア文化受容の一端を担っていたことが明らかになった。この成果については、シンポジウム「近代日本の洋楽受容とロシア」で発表した。 さらに、ロシア大歌劇団の花形歌手であったブルスカヤについても調査を進めた。日本、ロシア、アメリカに現存する新旧の資料をもとに、ブルスカヤの出自やオペラ歌手としてのキャリアについて精査した。彼女は日本で初の外国人オペラ・スターとなって、音楽・演劇・文学の各界に影響を与えたほか、渡米後にはメトロポリタン・オペラに入団して活動を続けた。メトロポリタン・オペラでは、ロシア大歌劇団での経験をふまえ、ロシア人歌手として息の長いキャリアを築いたことが明らかになった。本研究の成果は、早稲田大学総合研究機構オペラ/音楽劇研究所の研究例会で報告した。 なお、8月に計画していた上海での資料調査は家庭の事情で断念したが、2月にイギリスのダラム大学のスラブ・東欧音楽研究の国際学会に参加した。ロシア大歌劇団およびブルスカヤに関する研究発表を英語で行い、欧米、ロシア、ウクライナの研究者から、それぞれ有益なコメントを頂戴することができた。そのほかに、ロシアのオペラ文化に関する国境横断的研究も進め、共著書において、論文「18世紀ロシア宮廷におけるオペラ・セーリア上演の実態――ギリシア悲劇を原作とした作品に注目して」を発表することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上海への渡航はできなかったものの、イギリスで欧米、ロシア、ウクライナの研究者に向けて研究成果を発信し、交流できたことは大きな収穫だった。また、国内でもシンポジウムや研究会などでの発表を重ね、書籍も刊行できたことで、順調に研究が進展していると評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
ロシアや上海への渡航は国際情勢に鑑みて難しいかもしれないが、アメリカなどで調査を行いたいと考えている。アメリカは、ロシア大歌劇団が最後に巡業した地であり、これまでの調査から、同歌劇団に関係する資料(公演プログラム、楽譜、メンバーの個人的な所持品)が現存していることがわかっている。これらを調査して、彼らの出自や、ワールド・ツアーの詳細、オペラ上演の実態を明らかにする。また、アメリカの音楽・劇場界に彼らがどのような足跡を残したのかを具体的に検証したい。 そのほかに、帝国劇場の専務取締役だった山本久三郎関係の史料が慶應義塾大学メディアセンターで一般公開されたため、これらを活用してロシア大歌劇団の来日の経緯や帝劇公演の詳細をさらに調査したい。
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Causes of Carryover |
家庭の事情および国際情勢に鑑みて海外調査を延期したため。次年度は、国内外での資料調査に重点的に取り組むとともに、文献資料の収集のために残高を有効に使用したい。
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