2021 Fiscal Year Research-status Report
The Relationship between the Identity and the Tattoo in Modernity: An Analysis of the Body Linkage with Art
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20K12853
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Research Institution | Kyoto University of the Arts |
Principal Investigator |
大貫 菜穂 京都芸術大学, 芸術学部, 非常勤講師 (20817944)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | イレズミ / 身体表象 / 美学 / 装飾論 / メディア論 / 絵画論 / 日本映画 / 浮世絵 |
Outline of Annual Research Achievements |
20年度に引き続きは、新型コロナ状況下において遠方へのフィールドワークが制限されたため、本来の研究計画に基づく調査研究が実施できなかった。ただし、以下の二つの研究実績をあげた。 第一に、当初は予定していなかったが20年度に実施を決めた近隣で調査可能な研究が順調に進展し、成果を学会発表で発表した。この研究が達成された際には、①西洋社会と比較して、日本社会に顕著なイレズミ嫌悪が、先行研究が述べる「ヤクザ映画=イレズミ=悪」という単純化された図式に由来するものではないことの実証、②1980年代末から2000年前後までの「イレズミを入れた身体が語るもの」の社会的位置付けの変容という、二つが明らかになる。 この研究は、東映太秦映画村における「遠山の金さん」ものの資料調査や当時の制作スタッフへのヒアリング調査に基づく。本シリーズは、実在した江戸町奉行・遠山金四郎景元を題材に江戸末期から明治初期以降に創作された歌舞伎・講談を元に、1950年から62年まで、主演に当時の代表的俳優・片岡千恵蔵を据えて毎年製作・公開されていた映画に遡る。50年代末以降にテレビドラマに進出し、連続シリーズは1970年から2007年と半世紀もの間「お茶の間」で放映されてきた。本数は計800本にわたる。 この事実は、特定の期間に映画館でのみ観る「ヤクザ映画」と比較し、「イレズミを入れた金さんの身体=義侠的な身体」が日本社会にとって身近な存在であることを示唆し、その演出・表現を分析し、長きにわたり支持を得てきた理由を考察した。 第二に、本研究が当初に計画していた「身体の絵画化・絵画の身体化」「イレズミ制作を介した自己同一化」に関しては、その視点や論点を文章化し『現代思想』に掲載することで、研究の枠組みに対する意見や反響が得られた。結果として、本研究の期間が終了するまでに書籍の出版など具体的な成果還元の計画がたった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの進捗状況は、「(2)おおむね順調に進展している」と「(3)やや遅れている」の中間程度といえる。 その理由は、新型コロナ感染症状況下において、20年度後半から開始した研究やその成果発表は順調といえるが、本研究が当初予定していた研究内容にかんしては都道府県をこえた出張ができず、進まなかったためである。 ただし、これまでの調査データに基づいた考察を発表できており、なおかつ最終年度に向けた準備が進んでいる点に鑑みた場合、最低限の水準は満たせていると判断できることから、概ね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は本研究の一番のポイントであった彫師へのヒアリング調査とその内容に基づいた考察、成果発表を実施する。同時に、①大学院時代からこれまでの申請者の成果、②「身体の絵画化/絵画の身体化」「それを経た個人の主体形成および身体観形成」「そのプロセスにおける彫師-作品=イレズミ-顧客の相互作用」といった本研究の課題の核心に迫る内容、の二点を2023年度内までにそれぞれ書籍として出版できるように進める。 それと同時並行させて、東映の所蔵資料や日本の文学作品・芸能・映像作品の中で表象・提示されたイレズミ像への考察も進め、最終的に「日本におけるイレズミとそのイメージ研究」として、より日本社会の歴史の変化による価値観の変遷を、俯瞰的かつ直接的に反映した総合的なイレズミ研究として成果を出すことを目指す。
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染症状況下にあったため、国内・国外とも学会・研究会はオンラインでの参加となり、遠方への研究調査もできなかった。そのため、旅費・宿泊費が大幅に利用できていない。また、研究調査時に必要な謝金も発生しなかった。 今後は、感染状況に鑑みつつ遠方への調査や国際学会等への参加をすること、トークイベントなど他の成果発表方法を考えそこに資金を使うなどしたい。
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Research Products
(2 results)