2023 Fiscal Year Research-status Report
中世末期フランス・南ネーデルラントの風俗的主題のタペストリーに関する総合的研究
Project/Area Number |
20K12859
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Research Institution | Meiji Gakuin University |
Principal Investigator |
高木 麻紀子 明治学院大学, 文学部, 准教授 (80709767)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 世俗美術 / タピスリー / タペストリー / 中世末期 / 野人 / 世俗図像 / 風俗画 / 狩猟図 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題は中世末期にフランス・南ネーデルラントで制作された風俗的主題のタペストリー群を取り上げ、イメージの形成と展開を、実証的な作品分析を基盤としつつ機能や受容の観点からも明らかにすることを目的とする。以下、2023年度の研究実績をトピックごとに記す。 1)作品の実地調査/史資料収集:新型コロナウィルスとウクライナ情勢の影響を受け延期を重ねていた海外調査をようやく実施することができた。特筆すべきは、当初より計画していたグラスゴー、バレル・コレクション所蔵の中世末期の狩猟タピスリー群の実見調査と撮影が叶ったことであり、現地にて修復家の方から貴重なご意見と資料も頂くことができた。この成果を基盤としてトピック2、3へ進むことができた。 2)カタログ作成とそれに基づく図像考察:研究対象および関連作品のカタログ作成を継続しつつ、《野人の舞踏会》と《騎士と野人の戦い》の計2帳からなる〈野人のタペストリー〉(1465-1470年頃、ソミュール城美術館)と、《鷹狩り》(1440-1450年頃、ソミュール城美術館)の個別研究を進めた。前者に関しては、《野人の舞踏会》の画面中央にみられる愚者と野人の女性の描写が、特に15世紀後半以降にドイツ語圏で人気を博した「不釣り合いなカップル」の図像との間に留意すべき親近性を有すことが明らかになり、作品全体を貫くテーマが推察されるに至った。後者に関しては、鷹狩り場面を含む狩猟タペストリーの変遷において、その図像に新機軸が現れ始める過渡期の作例の1つとして位置付けることが可能となった。最終年度では、ここまでの研究成果の発表、刊行を目指しつつ、2023年度に採択された15世紀フランス・ヴァロワ王家のタペストリー研究へと繋げてゆく。 3)研究成果の公表:本課題の成果を含む口頭発表を1件行い、研究ノートを1本刊行した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の何よりの収穫は、新型コロナウィルスとウクライナ情勢の影響を受けて延期を重ねていた欧州での調査研究を実施できたことである。なかでも、申請時に計画していたグラスゴー、バレル・コレクションに所蔵される貴重な中世末期の世俗タペストリー群を実見調査できたことは特筆に値し、タペストリーの保存修復担当者の方たちのご助力のもと、作品カタログの情報のアップデートをすることが叶った。 また2022年度の研究のなかで、〈野人のタペストリー〉の図像が、15世紀後半のドイツ語圏で制作された版画作品との間に留意すべき類縁性を有すことが認識されるに至っていたが、これに関しても、ルーヴル美術館版画素描室での実見調査と資料収集が叶ったことにより、具体的な比較検討を進めることができた。 今年度は研究代表者に所属機関と職位の変更があったため、スケジュールの調整や研究時間の捻出にはやや苦労したものの、「研究実績の概要」に記したような新知見を得ることもできた。以上から、当該年度の進捗状況は「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
1)研究成果の統合と公表:本課題で対象とする全作品を網羅したコーパスは未だ存在せず、研究当初は解像度の高い図版が文献や所蔵機関公式HPにも掲載されていない作例も多く存在した。そのため、保存状態の確認や作品の細部写真の入手のためにも現地調査が不可欠であり、当初は年1回、計3回の海外調査を計画していた。2023年度にはようやく1回目の海外調査が叶ったものの、2019年の本課題申請時には予想できなかった円安の状況から想定以上の費用がかかってしまい、当初予定していた残り2回の実地調査は断念せざるを得ない状況にある。ただその一方で、コロナ禍のなかで一層加速した研究機関による史資料のデジタル化と無料公開は本課題にも多大な恩恵をもたらしており、最終年度はここまでに収集した資料と作成した作品カタログを活用し、成果の統合、発表、公刊に専念する。これにより、個別研究を基盤としつつ、中世末期からルネサンスにかけての世俗的、風俗的主題の美術の展開におけるタペストリーの位置づけと意義を具体的に指摘することを目指す。 2)研究成果の発表:上述の通り、最終年度の2024年度は、これまでの研究成果の発表、公刊を目指す。現時点では2024年6月に行われる西洋中世学会大会(於:富山大学)で、〈野人のタペストリー〉に関する研究成果をポスター報告として発表する予定である。また、本研究課題で取り上げている作例は日本ではほとんど知られていないため、一般の方向けの講座やエッセイなどにも成果の一部を反映させ、広く発信するよう努める。
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Causes of Carryover |
次年度に使用額が生じた一番の理由は、新型コロナウィルス感染拡大とウクライナ情勢の影響を受け、当初計画していた海外での実地調査を3年間に渡って延期していたことによるものである。本研究課題の申請時には予想できなかった円安の状況から、2023年度に行った1回目の海外調査に想定以上の費用がかかってしまったため、研究当初に予定していた残り2回の海外調査は断念せざるを得ない状況にあるが、残りの予算は最終年度に目指す研究成果の統合、公表のための費用として活用する予定である。
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