2020 Fiscal Year Research-status Report
日本美術における鶴に見る和漢の意識ー中世の涅槃図を中心にー
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20K12867
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Research Institution | Tamagawa University |
Principal Investigator |
藤元 晶子 玉川大学, 教育学部, 非常勤講師 (40724935)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 涅槃図 / 鶴 / 日本美術 / タンチョウ / マナヅル |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度では、研究期間の大半において、新型コロナウィルス拡大に伴う移動制限があったため、当初予定していた調査がほぼ実施できなかった。調査には、長時間・直接の人的接触を伴うためである。それを補うため、展覧会に出陳されている涅槃図の作例、寺院の法要の際に掛けられた涅槃図を可能な限り実見した。 当該年度では、複製・写真パネルを含め、48作品の涅槃図を見ることができた。主な作例は以下の通り。重要文化財 東京国立博物館本(平安時代)、重要文化財 奈良・達磨寺本(平安時代)、重要文化財 岐阜・汾陽寺本(平安時代)、神奈川県立金沢文庫本(鎌倉時代)、重要文化財 兵庫・浄土寺本(鎌倉時代)、重要文化財 行有・専有筆 根津美術館本(1345年)、重要文化財 滋賀・長命寺本(南北朝時代)、津市指定有形文化財 三重・林性寺本(南北朝~室町時代)、長谷川等伯(信春)筆 石川・妙成寺本(1568年)、東京都有形文化財 長谷川等言筆 東京・養玉院如来寺本(江戸時代)、港区指定文化財 狩野秀信筆 東京・増上寺本。 本研究開始以前からの成果も含め、管見の限り、鶴が描かれた最も早い涅槃図の作例は、平安時代に制作された重要文化財 岐阜・汾陽寺本で、鶴の種はマナヅルであった。鎌倉時代前半までに制作された涅槃図に登場する鶴は、すべてマナヅルであり、タンチョウが登場するのは、早くとも13世紀半ばを過ぎてからである。タンチョウが登場する作例は、いずれも、中国の宋・元時代の作例の強い影響を受けたものであった。早期の例では、頭部の赤い部分の位置など、実物と異なる描写が多く見られ、タンチョウの外見に関する知識が十分に普及していなかった可能性が示唆される。その一方で、18世紀以降の作例では、タンチョウが大半を占めることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
新型コロナウィルス拡大に伴う緊急事態宣言等の移動制限により、当初予定していた作品調査を行うことがほぼ叶わず、遅れていると判断せざるを得ない状況にある。この1年、居住する首都圏が感染拡大地域とされ続け、調査依頼を出して調査そのものは可能とされても、実施時期については終息を待ってからとされることが多かった。 そのため、当該年度に実見できた作例は、展覧会等に出陳されたものが大半で、本研究に不可欠な作品の調査は進んでいない。
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Strategy for Future Research Activity |
美術史研究において、作品の調査・熟覧は不可欠である。今後、移動制限が解除された段階で、本研究に必要な作例の調査を順次行う。当初、2か年での実施を予定していたが、2年目の令和3年度も、早期の事態終息は見込めないため、研究期間を1年延長することを想定している。
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Causes of Carryover |
当初、複数回の作品調査を予定していたため、それに伴う旅費を計上していたが、新型コロナウィルス感染拡大に伴う緊急事態宣言等の移動制限により、中止・延期を余儀なくされた。そのため、旅費と調査に伴うその他の経費(写真現像代等)が当初の予定を大幅に下回った。 今後、移動制限が解除されるまでは、展覧会に出陳される作例を中心に観覧し、制限解除後に作品調査を進める予定である。
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