2021 Fiscal Year Research-status Report
ザントラルト『ドイツ・アカデミー』の画家伝再考:著者との直接の交際という観点から
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20K12868
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
大杉 千尋 日本大学, 芸術学部, 研究員 (40845260)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ザントラルト / バロック美術 / ヴァザーリ / ファン・マンデル / 美術理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度はヨアヒム・フォン・ザントラルト著『ドイツ・アカデミー』に収録された「ザントラルト伝」に着目して研究を行った。当該部分はザントラルトの芸術観をもっともよく知ることができる部分であり、今後の研究に向けてザントラルトの芸術観を知ることが重要だと考えたからである。 具体的には、本文中でもっとも頻出する"natuerlich"(迫真的な、※ueはウーウムラウト)あるいはその名詞形である"Natuerlichkeit"(迫真性、※ueはウーウムラウト)に注目し、その語が使用されて記述されている作品を抽出し、どのような使い方がされているかを精査した。また、先行する類書であるジョルジョ・ヴァザーリの『美術家列伝』やカーレル・ファン・マンデルの『北方画家列伝』における類語"naturale"や"natuerlijck"とも比較を行い、ザントラルトのいう"natuerlich"が先行書とは異なる方法で使用されていることも確認した。 その結果、ザントラルトの"natuerlich"は「本物に似ている」「実物そっくりの」などといった物理的な意味にくわえ、「感情表現が迫真的な」などといった内面をも表現する意味が含まれていることが明らかになった。この背景には、ザントラルト自身が好むところであるカラヴァッジェスキ的な物理的迫真性のみならず、彼が『ドイツ・アカデミー』で志向したアカデミズム的な身振り、しぐさによる感情表現の豊かさまでもが反映されており、ある意味で対極的なこの二つの意味が"natuerlich"の語に発露しているのではないかと考えた。 この成果は美学会東部会 2021年度第5回例会にて発表された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルスの世界的な流行により、海外渡航ができなくなった。そのためザントラルトの『ドイツ・アカデミー』原本や、そこで言及されている作品の現地調査ができていないまま研究を進めざるを得ない状況である。 『ドイツ・アカデミー』そのものは活字化資料とオンライン資料とによって翻訳、分析作業はほぼ当初の予定通り進んでいる。現在2人分の伝記の全訳を終え、同書末尾に付録としてつけられたザントラルト自身の伝記について分析を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度はミュンヘン等ドイツ国内、ローマ、パリにおける調査を予定している。2020、2021年度に調査ができなかったサン・ピエトロ大聖堂のプッサンとヴァランタン・ド・ブーローニュの作品等、また今後研究を進めていく予定のクロード・ロランの作品、またザントラルト自身の作品、そして『ドイツ・アカデミー』の原本がその調査対象である。新型コロナウイルスの流行が終息次第渡航する予定であるが、状況は未確定であるため、更に次年度に繰り越す可能性も視野に入れて、日本での予備調査を入念に行う。 海外渡航が困難な状況が続く場合は、引き続きオンラインの資料を中心に調査を進め、必要に応じて現地図書館等に問い合わせて協力を仰ぐ予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの流行により海外調査を中止したので、旅費相当分を繰り越した。 次年度はロシア・ウクライナ情勢など世界情勢に鑑みつつ海外出張の準備、実施を行い繰り越した分の予算を使用していく予定である。状況によりやむを得ず海外出張が困難な場合は図書の購入による資料の収集にあてる。
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