2022 Fiscal Year Research-status Report
ザントラルト『ドイツ・アカデミー』の画家伝再考:著者との直接の交際という観点から
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20K12868
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
大杉 千尋 日本大学, 芸術学部, 研究員 (40845260)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ザンドラルト / クロード・ロラン / バロック美術 / ファン・マンデル / 美術理論 / ヴァザーリ |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は新型コロナウイルス感染症の引き続いての流行に加え、家族の病気により当初の予定通りに研究を進めることができなかった。 その中でも前年度に引き続きザンドラルトの"Natuerlich"(※ueはウー・ウムラウト)に着目し、『ドイツ・アカデミー』全文におけるこの語の使用状況について調査を進めた。その結果、ザントラルトの"natuerlich"は「本物に似ている」「実物そっくりの」などといった物理的な意味に加え、「感情表現が迫真的な」などといった内面をも表現する意味が含まれていることが明らかになった。この背景には、ザントラルト自身が好むところであるカラヴァッジェスキ的な物理的迫真性のみならず、彼が『ドイツ・アカデミー』で志向したアカデミズム的な身振り、しぐさによる感情表現の豊かさまでもが反映されており、ある意味で対極的なこの二つの意味が"natuerlich"の語に発露しているのではないかと考えた。この成果は2023年度に美学会発行の『美学』に投稿予定である。 また、『ドイツ・アカデミー』中の「クロード・ロラン伝」の翻訳作業を木村三郎元日本大学教授との共同で進めている。クロードはザンドラルトのローマ滞在中、彼と同居しており、共にローマ近郊で風景素描を行ったとザンドラルトは記述しているが、彼の伝記は従来バルディヌッチの「クロード・ロラン伝」に比べて軽視されがちであった。しかしザンドラルトが上記のようにクロードと密接な関係を築いていた以上、その伝記の内容も重要な位置を占めると思われる。この成果は2023年度に日仏美術学会発行の年報に投稿予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルスの世界的な流行に加えてロシア・ウクライナ間の戦争により、海外渡航が困難であった。そのためザントラルトの『ドイツ・アカデミー』原本や、そこで言及されている作品の現地調査ができていないまま研究を進めざるを得ない状況である。 『ドイツ・アカデミー』そのものは活字化資料とオンライン資料とによって翻訳、分析作業はほぼ当初の予定通り進んでいる。現在2人分の伝記の全訳を終え、同書末尾に付録としてつけられたザントラルト自身の伝記について分析を行った。また、3人目であるクロード・ロラン伝の翻訳もほぼ完了し、投稿に向けて準備段階に入っている。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年はザンドラルトの素描を所蔵しているニュルンベルクのゲルマン国立博物館、ウィーンのアルベルティーナ、ミュンヘンの国立図書館等ドイツ国内、またフランス、イギリス等への訪問を予定している。クロード・ロランの作品、またザントラルト自身の作品、そして『ドイツ・アカデミー』の原本がその調査対象である。新型コロナウイルスの流行が終息次第渡航する予定であるが、状況は未確定であるため、更に次年度に繰り越す可能性も視野に入れて、日本での予備調査を入念に行う。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの流行により海外調査を中止したので、旅費相当分を繰り越した。 次年度はロシア・ウクライナ情勢など世界情勢に鑑みつつ海外出張の準備、実施を行い繰り越した分の予算を使用していく予定である。状況によりやむを得ず海 外出張が困難な場合は図書の購入による資料の収集にあてる。
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