2020 Fiscal Year Research-status Report
The Singing Voice of Tamaki Miura: A Study of the Vocal Style of a Japanese Opera Singer in the Early Twentieth Century
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20K12896
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Research Institution | Tokyo College of Music |
Principal Investigator |
早坂 牧子 東京音楽大学, 音楽学部, 講師 (10807126)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 演奏スタイル / 音響分析 / 歴史的録音 / 日本人音楽家 / 三浦環 / テンポ / 蝶々夫人 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、本研究課題のテーマである三浦環とその同時代の音楽家、20世紀初期の日本における洋楽受容の状況と、同時代の欧米での音楽文化について調査を進めると共に、音響解析ソフトSonic Visualiserを用いた演奏分析に取り組んだ。特に着目したのは、プッチーニ《蝶々夫人》のアリア「ある晴れた日に」におけるテンポの処理である。三浦の1917年の録音と、エミー・デスティン、ジェラルディン・ファーラー、フランシス・アルダ、ローザ・ポンセルの1910年代の録音をSonic Visualiserで解析したところ、三浦の歌唱ではポルタメントやリタルダンドが強調され、結果テンポ表現がやや冗長に感じられる箇所があるものの、全体のテンポの緩急の付け方には同時代の欧米歌手と比して大きな逸脱はみられなかった。演奏スタイルの全体像を評価するには、音程、音色、発音、ヴィブラートなど、複数の要素を併せて更に検討する必要があるが、少なくともテンポの解釈という点において、三浦が同時代の基準に照らして違和感のない演奏をしていたことを示した。この研究成果は、日本音楽学会第71回全国大会(2020年11月14日)における研究発表「三浦環の蝶々夫人―〈ある晴れた日に〉(1917年録音)歌唱スタイル分析の試み―」及び『東京音楽大学研究紀要』44号掲載の論文「三浦環の《蝶々夫人》:『ある晴れた日に』(1917年録音)におけるテンポ分析」(pp. 113-123)として発表した。日本では音響解析ソフトを用いた演奏研究は少なく、2020年度の成果発表により、演奏をより客観的に分析・評価する手段のひとつとしてSonic Visualiserを紹介し、また三浦の演奏にも新たな客観的評価を加えるという目的を達成することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染症の影響により、2020年度の研究活動は大きな制約を受け、同時に大学における授業のオンライン化に伴って日常の作業量は増大した。このような状況下で、当初予定していたアーカイヴ訪問による調査は物理的に断念せざるを得ず、研究作業に割ける時間も減少してしまったため、研究計画よりも進捗状況にやや遅れが出ている。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナ渦の状況は今しばらく続くと見られ、2021年度の研究活動はオンライン上で実施できる内容に限られるものと思われる。国際会議やデータベースのオンライン化が進んでいることは不幸中の幸いで、2021年度はこうしたオンラインでのリソースを用いた情報の収集と整理、現在までに得られている研究成果の公表に注力していく。具体的には、まず三浦環のアメリカ・イタリアでの演奏活動とその受容について、電子新聞アーカイヴを用いて調査を進める。同時に、録音分析を継続し、ポルタメント、ヴィブラートといった、テンポ以外の演奏スタイルの構成要素についての分析を行い、可能であれば2021年度中に成果を公表する。三浦環の英国での演奏活動については、過去の研究内容に加えていくつか新たな知見が得られているので、これを英語論文としてまとめ、投稿することも2021年度の目標としたい。
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Causes of Carryover |
元来の研究計画では、国際会議や資料調査に必要な旅費を計上していたが、コロナ渦により物理的な移動が全くなくなったため、次年度使用額が生じている。2021年度も旅費の使用がほぼなくなることが考えられるが、余剰分は研究課題に関するホームページの開設、電子アーカイヴの講読費用、追加資料購入、協力研究者への謝礼に充てる。なるべく当初の計画に沿った内容のまま研究活動と成果発表を継続できるよう、科研費を使用しオンライン上の研究環境を整えていく。
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Research Products
(2 results)