2021 Fiscal Year Research-status Report
The Singing Voice of Tamaki Miura: A Study of the Vocal Style of a Japanese Opera Singer in the Early Twentieth Century
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20K12896
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Research Institution | Tokyo College of Music |
Principal Investigator |
早坂 牧子 東京音楽大学, 音楽学部, 講師 (10807126)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 録音分析 / シューベルト《冬の旅》 / 三浦環 / 演奏スタイル / 歴史的録音 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、大きく二つの研究成果があった。一つ目は、初期録音をテーマとする国際学会Redefining Early Recordingsのシンポジウムにて、三浦環による《蝶々夫人》「ある晴れた日に」のテンポ分析を発表する機会を得たことである。オンラインの参加ではあったが、録音研究に取り組む各国の研究者からコメントや参考資料の情報提供を頂き、また現在の初期録音研究の盛り上がりを知ることもでき、有意義な体験となった。 二つ目は、長らく不明であったシューベルト《冬の旅》の録音と訳詞が確認できたことである。2021年度後期NHK学術利用トライアルの制度を利用して調査したところ、三浦が死の約一ヶ月半前に歌った1946年4月収録の《冬の旅》ラジオ放送時の音源がNHKアーカイブスに現存すること、また玉川大学教育博物館「ガスパール・カサド 原智恵子コレクション」への照会で、1944年3月の演奏会プログラムに全曲の歌詞が掲載されていることが分かった。これらの録音と歌詞を調査し、以下の特徴が明らかとなった。まず、三浦の訳詞には、同時代の他の訳詞と比して和語や擬態語が積極的に用いられ、聴衆に理解しやすい言葉遣いに留意した様子が窺える。また、演奏テンポは現代の標準とほぼ変わらないが、ポルタメントやルバートの多用、カデンツにフェルマータをおく表現には、20世紀初頭に特有な演奏様式を見出せる。ブレスや発声には衰えを感じさせる部分があるが、透明感のある高音部の声質は最盛期と比しても遜色がなく、死の直前の演奏であることを感じさせない。声楽家としての三浦の力量を感じさせる録音であり、終戦翌年のラジオ録音という史料的価値を考えても、適切に保存・公開されることが期待される。三浦最晩年の演奏の実態を示すこれらの史料は、今後の20世紀邦人声楽家の演奏実践研究における重要資料のひとつとなるであろう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
前年度に引き続き、新型コロナウィルス感染症の影響で研究活動上の制約が出たこと、オンライン授業に伴う業務の増加で、研究計画より進捗状況にやや遅れが出ている。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、当初三浦環の海外受容に焦点を当てた調査・研究発表を行う予定であったが、国内での活動に関する資料の発見が充実していたことから、こちらを先に研究成果としてまとめていきたい。《冬の旅》に関しては、「三浦環の《冬の旅》:訳詞と録音に見る演奏の実際」(仮)として東京音楽大学研究紀要に論文を投稿予定である。電子アーカイヴスを用いた海外の受容調査も引き続き実施し、現在執筆中の英語論文の投稿準備を進めていく。また、三浦環の顕彰活動が活発化している山中湖村において、三浦環をテーマとしたイベントを今後展開していく企画が進行中である。こうした一般向け催しの中での研究成果還元も意識しながら、日々の研究活動を進めていきたい。
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Causes of Carryover |
元来の研究計画では、国際会議や資料調査に必要な旅費を計上していたが、コロナ渦により物理的な移動が減少したため、次年度使用額が生じている。2022年度は旅費の計上が増加することが見込まれる他、余剰分は研究課題に関するホームページの開設、電子アーカイヴの講読費用、追加資料購入、協力研究者への謝礼に充てる予定である。
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