2020 Fiscal Year Research-status Report
古典的ハリウッド映画の産業構造と物語様式の因果関係に関する総合的研究
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20K12899
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
木原 圭翔 早稲田大学, 文学学術院, 講師(任期付) (30755731)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 古典的ハリウッド映画 / 映画批評 / 映画産業 / スタジオ・システム / 作家主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は「古典的ハリウッド映画」の物語様式を「エコノミー(economy)」の観点から調査・分析することを目的としている。ここで言う「エコノミー」とは、利益を得るために映画を製作する映画会社の「経済」活動を意味すると同時に、映画作品に見られる「物語叙述、語り(narration)」の「効率性」の両方の意味を指している。本研究では、作品分析を主とする既存の映画研究が蓄積してきた美学的方法論の中に、産業構造の仕組みを分析する経済学・経営学の視点を新たに導入することで、企業として利益を追求する映画会社の経営戦略と、商品としての映画作品が結果として担う芸術的価値にいかなる因果関係があるのかを明らかにしていく。 本年度は、本研究が中心的対象とする映画製作会社ワーナー・ブラザーズが製作した『黒蘭の女』(Jezebel, 1938)を事例としながら上記の問題を検討した。本作は映画批評家アンドレ・バザンが、物語を伝える表現形式の「効率性」という観点から賞賛し、映画芸術の一つの到達点とみなしたことでも知られている。しかし、作品に対する監督ウィリアム・ワイラーの美的なこだわりと、それに伴う撮影日数の大幅な超過のため、実際の製作費用は当初の予定を大きく上回ったことが、先行研究によってすでに明らかにされている。つまり、ここではバザンが称賛したような簡潔で効率的な語りが、予算の節約に必ずしも貢献していない。反対に本作の場合では、画面上の簡潔さを最大限追求するために、むしろ多くの時間と予算が費やされており、完成した作品に見られる語りの効率性と、経済的な意味での予算の効率性との間に明白な因果関係は存在しないと考えられる。こうした事実を踏まえた上で、本作の一場面を物語論の観点からより具体的に検証する作品分析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定では、映画製作産業に関する一次資料の調査を本研究の第一の前提としていた。対象とするハリウッド映画の資料の一部(新聞、業界紙、雑誌等)は現在デジタル化が進んでおり、オンライン閲覧が比較的容易であるものの、より貴重な製作資料には所蔵する現地へのアクセスが必要なものも多い。現況のコロナ禍によって、アメリカやイギリスの映画資料機関への出張調査が困難な状況は、研究方針変更の検討を余儀なくされている。
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Strategy for Future Research Activity |
進捗状況で記したように、海外の映画資料機関への出張調査を第一の前提とすると、今後の研究をさらに遅延させる可能性があるため、次年度(2021年度)以降は国内においてアクセス可能な資料を前提とした調査を行う必要がある。そのため、主に産業側ではなく、受け手側の視点、具体的にはハリウッド映画を主な対象としてきた映画論者の思想を調査・分析することで、古典的ハリウッド映画が体現する「エコノミー、効率性」の実態を明らかにしていきたい。
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