2020 Fiscal Year Research-status Report
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20K12904
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
藤本 大士 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 都市文化研究センター研究員 (20869234)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 医学映画 / 手術映画 / 衛生映画 / 医学教育史 / 映画史 / 医学史 / 活動写真 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は主に、医学教育のために使用された手術映画と、政府が啓発目的に作成した衛生映画に関する分析を進めた。 手術映画については、その成果がEast Asian Science, Technology and Society誌に査読付き英語論文として掲載された。同論文では、1920年代後半から、日本の医学コミュニティのあいだで、手術を撮影した映画が流通するようになったことを指摘した。その背景には、第一次世界大戦勃発後、日本からドイツに医学留学をおこなうことが出来なくなっていたため、映画の輸入を通じて、ドイツ人医師の知識・技術を学ぼうとしたことなどがあった。また、日活などの映画製作会社が京都の医学部教授と協力して、その手術の様子を映画で撮影し、その映画を国際学会で発表することがあったことを指摘した。さらに、小型映画撮影機が海外から日本に入ってきて、日本で小型映画ブームが起こるなか、それを購入した医学部教授や開業医たちが、自身の診療・手術の様子を撮影し、医師コミュニティのあいだでそれらを交換していたことなども明らかにした。以上を通じて、映画というメディアを通じた医学知識・技術の循環があったという、医学史上の新知見を示すことができた。 衛生映画については、国会図書館で資料調査をおこない、医学雑誌や映画雑誌のなかから、衛生映画に関する記述を一つずつ拾い上げていった。現在のところ、とくに内務省衛生局や文部省が啓蒙のための映画製作に熱心であったことが確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルス感染症の拡大により、予定していた図書館・資料館でのいくつかの調査を中止しなくてはならなかった。そのため、実施できた資料調査は、国会図書館関西館におけるデジタル化資料の収集のみであった。しかし、その資料のなかには、本研究課題に関連する、興味深い記事を多く発見することができた。十分な資料調査はおこなえなかったものの、資料調査で収集した文献を読み込む時間に多くをあてることが出来た。具体的に現在までに明らかになっているのは、1920-1930年代に文部省や内務省衛生局がどのような衛生映画を製作していたかである。2021年度もこのペースで研究を進めていく。
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Strategy for Future Research Activity |
現在のような状況下において、資料調査を十分におこなうことはできない。そのため、今年度も基本的には、すでに収集できた資料をより深く分析することを中心に進めたい。状況が許せば、2020年度に出来なかった図書館・資料館での調査をおこないたい。 日本科学史学会(2021年5月開催)での報告に申し込んだため、採択されたならば、1920-1930年代の衛生映画について報告をおこなう予定である。この課題については、2021年度中に論文の形にまとめることを目指したい。
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