2020 Fiscal Year Research-status Report
三島由紀夫文学における思想系テクストの受容と実践に関する研究
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20K12924
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Research Institution | University of Kochi |
Principal Investigator |
田中 裕也 高知県立大学, 文化学部, 講師 (30769138)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 三島由紀夫 / 生成論 / 草稿研究 / 思想と文学 / フロイト / 戦後文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究について点に分けて報告する。1)三島由紀夫『愛の渇き』(1950年、新潮社)の草稿の調査・研究を行い、その特徴を明らかにした。2)戦後の「未亡人」言説と文学作品との関連性について、調査・研究をおこなった。3)三島由紀夫の蔵書関連を収集・調査・研究を行い、フロイト『戦争と死の精神分析』(1932年、アルス)が『愛の渇き』で用いられていることを明らかにした。 1)について:三島由紀夫文学館で『愛の渇き』の草稿を調査・研究し、草稿が決定稿であること、決定稿の段階でもヒロインの悦子の造形が定まっていなかったことが明らかになった。さらに悦子の性格設定にモーリャック『テレーズ・デスケルゥ』(杉捷夫訳、1949年、細川書店)からの影響が見られることが明らかになった。 2)について:『愛の渇き』の悦子の「未亡人」表象について、戦後の「未亡人」言説と比較し、その特徴を明らかにした。夫の戦死等で戦後には「未亡人」が大量に生み出され、社会問題化していた。そのなかで「未亡人」に「家」制度から離脱し、社会進出や自由な恋愛を促す言説が生み出される。しかし悦子はあえて「家」に閉じこもり、自身を「幸福」だと自称する。悦子の描かれ方から三島の戦後社会に対する皮肉な姿勢が明らかになった。 3)について:三島文学の思想的基盤を明らかにするため、三島の蔵書関連を収集し、作品との比較を行った。『愛の渇き』の悦子が言う「幸福」の概念が、フロイト『戦争と死の精神分析』(1932年、アルス)に収録されている「文化の不安」に拠っていることが明らかになった。 以上の3点の調査・研究結果を、「三島由紀夫「愛の渇き」の生成:悦子の「幸福」をめぐって」(「國文學論叢」第66輯、2021年、龍谷大学国文学会)に論文として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究成果としては、おおむね順調に進展している。新たに三島由紀夫文学とフロイト『戦争と死の精神分析』との関連性を明らかにし論文化したことは、三島由紀夫文学の研究として意義があったと思う。三島由紀夫文学の思想的テクストの受容を明らかにしている点だけで見れば、大きな成果であろう。 しかしコロナ禍で三島由紀夫文学館や日本近代文学館での調査・研究作業について、大幅に見直さねばならなかった。本来であれば三島由紀夫文学館での複数回の調査を行う予定であったが、文学館の一時閉鎖等でそれが充分に行えたとは言えない。そのため「おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度も引き続き、三島由紀夫文学のなかに思想系のテクストがどのように受容され、それがどのような目的をもっているかについて基礎的な調査・研究を行う。三島由紀夫の蔵書関連の収集・調査・研究とともに三島文学の草稿類の調査を三島由紀夫文学館で行う予定である。今年度は三島由紀夫『仮面の告白』(1949年、河出書房)を中心に、〈美と性〉をめぐる思想系テクストとの比較研究を行っていく予定である。 その研究結果について学会での口頭発表、研究ノート、論文で発表していく。
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Causes of Carryover |
コロナウイルス感染拡大の影響で、当初予定していた文学館や図書館での調査が殆どできない状況であった。そのため旅費を次年度以降の調査・研究や学会発表への旅費として繰り越すこととなった。次年度に状況が改善されれば、今年度に行えなかった実地調査を行う予定である。
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Research Products
(1 results)