2023 Fiscal Year Research-status Report
三島由紀夫文学における思想系テクストの受容と実践に関する研究
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20K12924
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Research Institution | University of Kochi |
Principal Investigator |
田中 裕也 高知県立大学, 文化学部, 准教授 (30769138)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 三島由紀夫 / 生成論 / 草稿研究 / 思想と文学 / フロイト受容 / 戦後文学 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は三島由紀夫文学館において、『金閣寺』の草稿調査・研究をおこなった。これまでコロナ禍で調査が遅れていたため、4年目である2024年におこなうことになった。時間の問題もあり、まだ半分程度の調査になっており、次年度に調査を継続する必要が出てきた。ただ現状の調査内容からも、『金閣寺』の作品生成には〈性〉に関する思想書が用いられ、原稿にもその知識をどのように用いているのかが明らかになってきた。三島は〈性〉という動物的本能を、人間が〈美〉に昇華して〈性〉の欲望を抑制するシステムについて『金閣寺』のなかで挑んでいる。そのなかで金閣寺の和尚は性のメタファーとして書かれていることは既に先行研究でも指摘されているが、問題点は〈性〉の管理や禁止に関する存在が登場人物よりも年上の男性であることなのではないか。原稿で和尚について何度も書き直しがあることから、人物設定に苦慮したことが見えてくる。 次に、三島由紀夫『仮面の告白』に用いられた〈性〉に関する思想書の関係の整理を行った。既に先行研究で言われているハヴェロック・エリス『性の心理』だけでなく、フロイトの〈性〉に関する知識を用いていることが明らかになった。そこから三島がどのように「私」の性知識だけでなく、身体に起こった出来事として再編成していったのかを確認・分析を行った。『仮面の告白』は一見すると「異常な〈性〉」を扱った作品に思われがちだが、実は「正常な〈性〉」という中心的な性慾というものを人間自体が持ち合わせていないことを暴く小説になっていることが見えてきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は三島由紀夫の草稿・原稿・蔵書の調査・研究を行うという性質のため、数年間にわたるコロナ禍で調査に行けなかった時期があるためである。また自身の体調の不良が数ヶ月あったため、研究がやや遅れることになってしまった。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、三島由紀夫文学館で『金閣寺』の原稿調査を終え、調査・研究に関する報告をおこなう予定である。また三島由紀夫『仮面の告白』に関する研究内容をまとめ直し、論文内容の精度を上げたうえで発表する予定である。それにより、戦後三島由紀夫文学の思想と実践に関する内容の一端が明らかになると思われる。
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Causes of Carryover |
コロナ禍で三島由紀夫文学館での調査・研究が大幅に遅れてしまったことが主要因である。本来は研究1年目から2年目にかけておこなうことが、後半の3年目の後半あたりにようやくできるようになったためである。また3年目と4年目に、体調不良で夏期休暇中に一か月ほど研究が行えなかったため、論文の執筆に時間が割けなかったことがある。そのために次年度へ研究を延長せざるを得なかった。
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Research Products
(1 results)