2020 Fiscal Year Research-status Report
ムスヒ神・ムスビ神に関わる日本古代霊魂信仰の体系的な理解とその具体相の研究
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20K12926
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Research Institution | Mejiro University |
Principal Investigator |
那波 陽香 (森陽香) 目白大学, 外国語学部, 専任講師 (00845175)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 万葉集 / 山部赤人 / 霊魂 / 芸能 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度は、研究の初年度として、特に『万葉集』における霊魂観念の研究に努めた。研究内容・成果は大きく3つに分けられる。 第1は、「山部宿禰赤人が作る歌二首 あわせて短歌 ー『万葉集』九二三~九二七)考」という題で上代文学会の機関誌「上代文学」125号(2020年11月発行)に掲載となった論に結実した研究成果である(査読あり)。本論は、表立って「霊魂」に対する信仰の具体相を論じてはいないが、「見る」「聞く」といった鎮魂にかかわる基本的な動作が、『万葉集』内の歌の歴史の中で、表現上どのような変遷をたどっているかを、特に赤人歌を軸に論じたものである。 ところで、歌を介して「見る」「聞く」といった動作が成立するということは、「見る者」「聞く者」に対して歌などを声に出したり何らかの演技をしたりして、「演じる者」の存在もあるということになる。つまり、歌には芸能的な側面が見出される可能性があると見込まれる。そこで第2として、「『万葉集』と芸能」という大きな問題を設定して、『万葉集』が古代芸能とどのような、あるいはどの程度の関わりを持っているかを考察し、鎮魂というさらに大きな課題に向かっていくための足掛かりを築くことを試みた。この論は2020年度3月末に発行予定であった、藝能学会の機関誌「藝能」に掲載予定であった(査読あり)が、現在(2021年4月)発行が遅れていて校正段階である。 第3は、『万葉集』における霊魂観念の具体的事例として、「人魂」を詠み込んだ巻16所収歌の考察に着手した。当該歌は「おそろしき物の歌」という題がつけられているので、人間の霊魂の遊離を中心に、それがなぜ「おそろしい」という感情に結びついてゆくのか、歌の訓詁注釈といった基礎的な点から確認し考察しており、研究2年度目以降に学会発表・論文という形で公表したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
査読ありの学会誌に1本掲載、1本がまもなく掲載という状況は、上代文学研究の分野においては比較的順調な達成であると考えるためである。また研究2年度目以降の研究成果発表につながっていく新たな研究角度も開拓することができた。「実績の概要」欄には、その具体的内容を記述するゆとりを持たなかったが、現在、そもそも日本人が何を「おそろしい」と感じてきたかという大きな視点にたって、江戸時代までの古典文学全体を見渡し、霊魂に関わる描写や「おそろしい」記述などを拾い上げる作業を行っていて、万葉集の当該歌研究においては従来説に対して新たな研究内容を発表できる見込みのもと、準備を整えているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後予定する研究内容は、大きく3つに分けられる、 第1は、『万葉集』における霊魂観念の具体的事例として、「人魂」を詠み込んだ巻16所収歌を継続して考察することである。当該歌は3首からなり、その中には訓詁という基本的なところから問題を含む歌があるが、そうした基礎的な課題に対処しつつ、日本人が伝統的に何を恐れてきたのか、そしてそれはなぜなのか、といった、日本人全体の心性の特徴という大きな課題に向かっていきたい。具体的には、万葉歌を手がかりとしつつ、「魂」や「神」に対する意識、あるいは「他界」「異界」などと呼ばれる信仰意識について、文学・民俗学の両面から考察してゆく予定である。 第2は、「万葉集と芸能」の研究の継続である。現在までに、その基礎的研究作業はほぼ終了させることができたため、今後は、「歌」そのものの持つ芸能性を論証し、「歌」が果たす「鎮魂」の機能について考察したい。 第3は、新たな具体的課題として、「神」と「魂」と「人」との関係性を考察する。この点は、これまでにも多くの先行研究があるが、たとえば「神代」という言葉一つをとってみても、『古事記』『日本書紀』『万葉集』などを見通して論じようとする時、なお考察の余地が残されていると見込まれるため、そうした着眼点から研究を進めたいと考えている。
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Research Products
(2 results)