2020 Fiscal Year Research-status Report
Comprehensive research on "Hisan/Shinkoku Shōsetsu" in the late 1890s.
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20K12941
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Research Institution | Yonezawa women's junior college |
Principal Investigator |
岡 英里奈 山形県立米沢女子短期大学, その他部局等, 講師 (80784181)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 悲惨小説 / 深刻小説 / 田岡嶺雲 / 『青年文』 / 日清戦争後の文学 / 文芸時評 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、新型コロナウイルス感染症流行の影響により移動や図書館等の施設の利用が制限されたため、「研究実施計画」の1および2の「悲惨・深刻小説」作品の収集・分析ができなかった。代わって3に記載した「悲惨・深刻小説」に対する批評言説の収集と分析、また「悲惨・深刻小説」に関する先行研究の収集を行った。 『青年文』については、全4巻24冊の時評欄を対象に、「『青年文』主要記事と言及作品、主な批評の内容」のリストを作成した。これによって、「悲惨・深刻小説」が日清戦争の勝利後、西洋文学に匹敵する「大文学」、特に「悲劇」を求める文脈の中で発見・評価されていたこと、また時評欄においては広津柳浪や泉鏡花、川上眉山など当時の新進作家の他に、宮崎三昧や村上浪六による歴史小説や撥鬢小説が、その「悲劇」の範疇に入るものとして評価されていたことが分かった。当時の『青年文』は、現在の文学史においてはあまり顧みられることのない大衆的・通俗的文学と、翻訳・翻案を含めた西洋文学の要素を多く持つもの、また近松や西鶴等元禄文学の影響を強く持つものとが、全て「悲劇」の名のもとに好ましい文学として論じられる場であったといえる。「悲惨・深刻小説」の「過渡期」的性質はつとに指摘されているが、それを評価する側にもまた、過渡期的な文学観があったことが分かった。 『青年文』および田岡嶺雲の文学観について、またその同時代における位置づけについては、他雑誌の時評のデータ化も含め今後も調査や考察が必要である。しかし本年度の研究を通して、従来、日清戦争後の社会矛盾の露呈や、松原岩五郎、横山源之助等による下層社会のルポルタージュ作品の影響によるものとして説明されてきた田岡嶺雲および『青年文』における「悲惨・深刻小説」の発見を、別の側面から捉えることが可能になった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染症の流行により、移動や図書館等の施設の利用が制限され、「研究実施計画」の1および2(文芸雑誌の調査による「悲惨・深刻小説」作品の収集と分析)が大幅に遅れたため。また、学会発表や研究会での発表も制限されているため、これまでの成果を発表し、議論により精査することもできていない。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は当初の計画を変更し、3(「悲惨・深刻小説」に対する批評言説の収集と分析)を進めた。これによって、ある程度の数の「悲惨・深刻小説」および周辺作品を把握することができたため、出張による調査が可能になるまでは図書館相互利用等を活用し、計画1および2の実施に努める。また、オンラインによる学会や研究会を活用し、できる限り研究成果をまとめ、発表する機会を作るよう努める。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の影響により県外での調査が難しく、旅費として想定していた予算の使用が困難だったため。当該年度は研究実施計画を変更し、その多くを図書の購入として物品費に回した。次年度も状況が落ち着くまでは、図書購入や図書館相互利用等を利用し、可能な範囲で研究を実施する予定である。
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