2020 Fiscal Year Research-status Report
The Self-Consciousness and the Use of Poetic Form and Genre in Twentieth Century English Poetry
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20K12952
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Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
五十嵐 奈央 宇都宮大学, 共同教育学部, 助教 (50868346)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | イギリス詩 / 第二次世界大戦 / 20世紀 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、主に20世紀前半のイギリス詩における伝統的詩形式・ジャンルの使用が、詩人の詩人としての自意識と関連し、同時代の社会的な関心を扱う際に担う機能について考察している。 本年度は、第二次世界大戦期の「祈り」(prayer)の形式を使用した詩を、それらに影響を与えていると考えられる詩人ジョージ・ハーバートの作品とその受容に注目しながら研究した。「祈り」は、対象への信仰・希望を前提とするが、「祈り」の詩では、詩人の「自己」(self)に対する認識が中心にあることが分かった。20世紀前半の詩人の多くは、詩人、信仰者、そして個人としての「自己」への確信を、ハーバート評価の理由の一つとする一方、神および「自己」に対する「不信」を示すために「祈り」の形式を使用しているように思える。この観点からさらに研究を進めることで、危機の時代における「祈り」の詩の独自性を明らかにできると考えている。 また、「祈り」と同様に「不在」の対象を持ち、戦争詩にも深く関わるジャンルとして「エレジー(elegy)」の研究も始めた。20世紀のエレジーは、伝統的なエレジーが最終的に提供すると考えられていた、「喪失」に対する「慰め」を与えることを拒否している「反エレジー(anti-elegy)」的傾向があるとする先行研究が現在でも影響力を持っている。しかし本研究では、伝統的形式への回帰を語っていたW. H. オーデンらの詩において、「エレジー」を含む文学的伝統は、詩をその外部と接続するために利用するべきものだったのではないかとの考えから分析を進めた。これまでの研究では、ルイ・マクニースのエレジーを考察し、死者を語ることで自身の生および詩人としての能力を確認する、エレジーの伝統を踏襲している面もあるものの、「個人性が否定される社会」という大きな文脈の中に「個人」の価値を位置づける試みとみなすことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は、新型コロナウイルスの流行により、発表者あるいはパネリストの一人となる予定だった学会が軒並み延期となり、研究成果を発表し実績とすることができなかった。しかし、いずれの学会も発表権は保持しており、2021年に改めて開催される際には予定通り発表することになっている。また、国際的学術誌への論文執筆・投稿は、採用・不採用の決定を待っている段階ではあるものの、予定通り行うことができた。ルイ・マクニースの詩Autumn Sequelについて、伝統的形式・押韻パターンの使用という観点から再評価を主張する論文と、マクニースの戦後詩について、エレジー(elegy、悲歌)の伝統から考察する論文を完成させた。 勤務先の大学内での諸事情により、授業について、前年度および当初の計画から大幅な変更が迫られたため、研究に費やす時間が計画よりも少なくなってしまったが、研究テーマの中心にあるマクニースの第二世界大戦期の詩について再考することができた。そのなかで、同時期の詩に影響を与えている可能性のある17世紀宗教詩およびジャンルとしてのエレジーの研究に進むことができたのは、今年度の大きな成果であった。それらのテーマをどのように関連づけることができるかについては、今後、さらに関連作品や先行研究を読み、考察していく必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、2020年度に取り組んだ大きな2つのテーマ、1)17世紀宗教詩の20世紀前半の詩(特に第二次世界大戦詩)への影響と、2)ジャンルとしてのエレジーについて、研究を進める。 1)に関しては、特にジョージ・ハーバートの作品分析と、20世紀における形而上詩人の受容に関する先行研究を読む。2021年度中に、マクニースだけではなくW. H. オーデン、ディラン・トマスを含む20世紀前半のイギリス詩とハーバートの詩に関する論考を完成させる。 2)については、先行研究の量が膨大であるため、2020年度中に収集したそれらの先行研究を読み、20世紀前半、特に第二次世界大戦前後のエレジーの定義を明確にすることを目指す。第一次世界大戦の詩におけるエレジーおよび、現在広く認められている、20世紀のエレジー研究の権威ヤハン・ラマザニによる20世紀エレジーの定義との比較考察を通じて、第二次世界大戦期のイギリス詩の独自性を明らかにする。 これらの研究のためには、出版物として入手可能な詩集、研究書だけでなく、当時詩人たちが寄稿していた雑誌に掲載された詩やエッセイを参照する必要がある。現在、イギリスに渡航してそれらの資料を参照することは困難であるものの、日本国内で一部の資料を所蔵している大学図書館があるため、長期休暇中に調査に赴くことを予定している。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの流行により、現地(国内、海外含む)に赴いて学会発表したり、アーカイブで資料調査をしたりする予定がすべて延期になってしまったことが大きな理由の一つである。また、勤務校の諸事情(担当授業・業務の増加)により学期中に研究時間の確保が難しかったことも理由に挙げられる。 今年度は、主に以下の計画で助成金を使用する。 1)学期中にも今年度の研究で使用する資料を計画的に収集・購入する。 2)(情勢に考慮しながらではあるものの)長期休暇中に研究に関わる資料を所蔵する国内の機関(主に東京都内)に赴く。集中的に資料を閲覧するために、一定期間宿泊施設等に滞在して調査を進める。
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