2021 Fiscal Year Research-status Report
The Self-Consciousness and the Use of Poetic Form and Genre in Twentieth Century English Poetry
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20K12952
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Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
五十嵐 奈央 宇都宮大学, 共同教育学部, 助教 (50868346)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | イギリス文学 / 戦争 / 戦争詩 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度の本研究の一つ目の成果は、戦争詩に関する研究を進めたことである。戦争と記憶に関する国際学会では、戦時中のルイ・マクニースの作品において、詩を、人間の超時間的価値の主張および証明とする意図がみられることを指摘した。さらに、第一次世界大戦詩について、近年注目されている「ケア(care)」の概念から考察し、国内研究会のミニ・シンポジウムで発表した。戦争詩ではしばしば、嘆く主体(詩人)と嘆かれる対象の閉じられた関係が確立され、読者は悲しみの共有を許されていないように思える。しかし読者も、他者の苦しみについて読み、感じることが要請されている点で詩人が「ケア」する対象であり、詩人とともに「ケア(嘆く)」する側にも参入させられている。詩人は、嘆かれる側だけでなく、嘆く側(読者)の悲嘆にも責任を持つことを役割としていると結論づけられた。 二つ目の成果は、「病」を扱った作品について、国際学会の「アイルランド文学と病気」をテーマとしたシンポジウムで発表したことである。マクニースは、精神的痛みを伴う個人的な過去を、直接的かつ即時に表現するよりは、回想や間接的な表現手法において取り上げることが多い。発表では、マクニースが、病んだ人物やその影響を受けた他者が抱える統合した自己を維持する難しさを、詩人としての自己の不確定性に結びつけながら描いていることを明らかにした。 三つ目の成果は、戦争詩での「祈り(prayer)」の形式の使用に関して、詩の創作と解釈をテーマとする国際学会で発表したことである。信仰心を伴わない「祈り」の形式をとった第二次世界大戦期の詩では、神および人間への幻滅を示し、信仰および祈りを、それらが救済できない者たちの存在を前景化させるものとして利用していることを論じた。 今後は、これらの成果を詩人の自意識に関する論考としてまとめ、出版することを計画している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は、2020年度にコロナウイルス流行の関係で延期された学会での個人発表とシンポジウムのパネリストとしての発表の2件に加え、ミニ・シンポジウム(国内研究会)でパネリストとなったり、別の国際学会での個人発表を行ったりしたこともあり、研究の成果を発表する機会に恵まれた。しかし、コロナウイルス対策を踏まえた授業の準備や、学内委員会の業務などで、出版を目指した論文の執筆に割く時間は減ってしまった。2022年度は論文の執筆により力を入れる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、2021年度まで進めてきた、エレジーや「祈り」というジャンル・形式を主眼に置いた作品分析を含む、第二次世界大戦期のイギリス詩に関する論考をまとめ、査読付きの国際的学術誌に投稿することを目指す。以下のテーマに関する論文の執筆・投稿を予定している。 1)戦争詩における「祈り」の効用(生への希望を示すことを目的とした戦時中の詩での、祈りと詩の類似性・差異ー特に言葉の実現可能性における違いーに対する意識の表出について) 2)「エレジー」としての戦争詩(嘆く主体である詩人、嘆かれる死者[兵士/他の詩人]、読者、の関係性について) また、研究対象をさらに広げ、ルイ・マクニースの作品以外の同時代の詩作品および20世紀後半の作品における、形式・ジャンルの使用に注目し、論考をまとめられるようにする。まず、17世紀の宗教詩人(ジョージ・ハーバートら)のマクニース、W. H. オーデンの詩に対する影響について研究を進める。
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Causes of Carryover |
コロナウイルス感染拡大のため、発表した国内外の学会が全てオンライン開催になったほか、今年度行う予定であった学外での調査も断念せざるを得なかったため、実際の助成金使用額が、使用予定額を下回り、次年度使用額が生じた。 次年度は、1)研究対象と関連のある第二次世界大戦期の文芸誌(Horizon : A Review of Literature & Artなど)を閲覧するため、国内の当該ジャーナル所蔵施設に赴く。2)国際学会での研究発表を行う。3)20世紀詩の形式・ジャンルに関する研究会を開催する。 大学や国の規制を考慮しながら、以上の計画を実行する予定である。
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Research Products
(4 results)