2020 Fiscal Year Research-status Report
英国モダニズム文学における病と日常的不調の美学と政治学
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20K12968
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Research Institution | Gifu Shotoku Gakuen University |
Principal Investigator |
四戸 慶介 岐阜聖徳学園大学, 外国語学部, 講師 (60848216)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | モダニズム文学 / インフルエンザ / 病 / 日常的不調 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、Virginia WoolfのMrs Dalloway (1925) におけるインフルエンザ、戦争神経症、そして更年期障害といった病や不調の相互関係を、同時代に同様の病と不調を扱う複数の作品と比較しながら考察する計画であった。Katherine Anne Porterの“Pale Horse, Pale Rider”(1939)を比較作品とし、研究を行った。 この研究では上記2作品を、明確にインフルエンザの感染を描く“Pale Horse, Pale Rider”と詳細にインフルエンザを描か/けなかったMrs Dallowayという位置づけで比較考察を行った。この比較を通して、改めて1918年のインフルエンザパンデミックという大きな衝撃をもたらした災禍の文化的影響を再考する流れの中で見過ごされかねない病いや不調の微妙な関係性に焦点を当てることで、WoolfのMrs Dalloway におけるインフルエンザ、戦争神経症そして更年期障害といった病いや不調の描写がそれぞれどのように絡み合い、どのように距離がとられているのかを考察し、このテクスト内において病いと不調で繋がる共同空間のようなものが構築されうる可能性を、そして、Mrs Dallowayというテクストがこれ以降のWoolfの作品で表れてくる日常的、私的な不調(ailments)を持つ人々を描くに至る過渡期として位置づけられる可能性を探った。 以上の研究について、2020年10月に岐阜県岐阜大学でウェブ開催された第72回日本英文学会中部支部大会にて、研究発表を行った。 また、上記の研究に取り組む中で浮上した「病/不調と労働の関係」という課題についても研究を進め、その論文の執筆も現在進行中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は、当初の予定であった研究内容に関しては、扱う作家や作品を限定する必要はあったものの、学会での発表を行うことで他の研究者からの有益なフィードバックを得ることができた。この研究を論文としてまとめ、学会誌へ投稿する当初の計画までは至らなかったが、その論文をまとめる過程で、特に、Katherine Anne Porterの作品を考察する過程で浮上した「モダニズム作品における病/不調と労働の関係」の研究をまとめていく中で、この課題に焦点を当てた論文が執筆されている。この課題は2022年度の研究計画の核として扱うものであり研究計画の順番としては多少の前後があったが、2020年度の研究テーマをはじめとして全体の研究にもかかわる課題であるため、丁寧に研究を進める必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、2020年度に進めた研究論文を完成させ、投稿につなげる。また、WoolfのBetween the Acts (1941)で描かれる女性登場人物の歯痛の経験を第二次世界大戦前夜の政治的状況との関連から考察する研究計画である。Woolfはこの他にエッセイや日記でも歯の治療の様子を記している。そうした描写がモチーフとして政治的色彩を帯びて作品に表れていることから、作品出版前後の歯の治療や歯科衛生に関する言説の流通について、医学雑誌The Lancetや当時のポスター、広告なども含めた一次資料の調査を行い、所属学会での研究発表を経た後、論文としてまとめ学会誌への投稿につなげる。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、2020年度はコロナ禍による影響で学会開催がWebになり旅費として使用する予定だった旅費の支出と、論文執筆に係るProof Readingための人件費等の支出が生じなかったことによる。 次年度、感染症収束を待ち、開催される学会へ参加する際の旅費、そして執筆論文のProof Readingのための人件費、研究課題関連書籍の購入等に使用する予定である。
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Research Products
(1 results)