2020 Fiscal Year Research-status Report
Critiques of Jacobean Government in Fulke Greville's Later Works
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20K12972
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
西野 友一朗 近畿大学, 工学部, 助教 (10845697)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | フルク・グレヴィル / 初期ステュアート朝 / ジェイムズ朝 / 戯曲 / 絶対王政 / 英詩 / 英文学 / イギリス |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度(令和2年度)では、グレヴィルがエリザベス朝期に執筆し、ジェイムズ朝期に加筆修正した戯曲『ムスタファ』(Mustapha, 1633)の修正前と修正後テクストの違いを精読を通して比較し、修正後の帝王ソリマンと息子ムスタファの親子関係がジェイムズ1世(James VI and I, 1566-1625)とヘンリー皇太子(Henry Frederick Stuart, 1594-1612) の親子関係を表象することを検証した。その検証の結果、作品における親子関係だけではなく、ヘンリー皇太子が夭折した際に噂となったジェイムズによる暗殺が反映されているという分析結果が得られ、その研究成果は十七世紀英文学会関西支部第216回例会(2021年3月27日/オンライン開催)において、「息子に嫉妬する父親:『ムスタファ』におけるジェイムズ1世とヘンリー皇太子の表象 (拡大版)」として発表した。 また、広島大学に提出した博士論文 ‘Fulke Greville and His Literary Critiques of Court Corruption in the Jacobean Government’ (フルク・グレヴィルとジェイムズ朝期における宮廷腐敗への批判) (甲第8426号)も本研究課題の成果であり、これによって2年目に検証予定であったグレヴィルの宗教詩に内包されるジェイムズの宗教政策、特にジェイムズのアルミニウス主義に対する寛容政策への反発が、詩集『シーリカ』だけではなく論考詩『宗教論』や『人文論』にも反映されているという分析結果が得られた。 初年度の成果により、本研究課題として設定していた、「①作品が詩人の伝記的側面から実証主義的に解釈できる」を達成することができたと考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、初年度の成果の一部として広島大学に提出した博士論文 'Fulke Greville and His Literary Critiques of Court Corruption in the Jacobean Government’(フルク・グレヴィルとジェイムズ朝期における宮廷腐敗への批判) (甲第8426号)によって大きく進展した。この成果によって、グレヴィルが国王ジェイムズの政策に対して批判的な意見を持っていたこと、その批判的な姿勢や態度がグレヴィルの詩作に影響を与えたことが判明した。特に、博士論文の中で論じたが、ジェイムズの財政政策に対するグレヴィルの批判が詩集『シーリカ』のソネット94番に内包されていることを、作品の手書き原稿であるウォリック版マニュスクリプトを分析することで得られたことは、初年度における成果でもある。 また、博士論文の一部を加筆修正したものを十七世紀英文学会にて発表したことで、ソリマンとジェイムズ、そしてヘンリー皇太子とムスタファをより強く結びつけるために必要な資料の目途が付いた。具体的には1612年にヘンリー皇太子が夭折した際に出版された挽歌や頌徳(しょうとく)文に着目することで、引き続きイギリス国民が抱いていたヘンリー皇太子の表象を探り、初年度の成果と統合していく。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度で明らかとなったグレヴィルの国王ジェイムズに対する政治批判は、その批判が我々のような現代の人間にとっては批判というよりも非難に近いと解釈できる表現が幾つもあることが分かった。グレヴィル本人が「国王ジェイムズの相談役」と自分の墓に刻んだことに鑑みると、グレヴィルとジェイムズの関係性は一般的な国王と臣下の関係ではなく、お互いが気を遣わずに好きなことを何でも言えた関係性であったのかもしれない。そこで、次年度からはジェイムズとグレヴィルの関係、つまり国王と臣下との関係性に着目し、グレヴィルはどのようなジェイムズの「相談役」であったのかを探っていく。その検証方法として、初期近代イギリス史の観点からジェイムズ朝の君主と臣下の関係性を分析する必要があるため、国王の「相談役」として任命された宮廷人の役割に関する先行研究を入手し、その内容を初年度で得られた結果に統合する。そうすることにより、本研究課題で明らかにしようとしているグレヴィルのジェイムズ批判が、他のジェイムズに仕えていた宮廷人とは異なったジェイムズとグレヴィルの関係性を基に展開されていたことを明らかにし、それによって本研究課題をさらに発展させていきたい。
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Causes of Carryover |
本研究課題が開始されて間もなく発生した新型コロナウィルスの流行により、国際学会への参加を取りやめた。これにより、準備のために購入予定であったノート型パソコンを購入する代わりに、学会誌への投稿を目指して論文執筆に必要な書籍の購入に充当した。購入した書籍は洋書がほとんどであり、残金は次年度の研究に必要な書籍購入に充てる。 また、新型コロナウィルスの感染拡大状況に鑑み、国際学会への参加は次年度も自粛すべきである。そこで国際学会に参加できない代わりに、研究対象であるフルク・グレヴィルについての知識を有している専門家に、申請者が執筆した論文を校閲してもらうように依頼する。そうすることで、本来学会に参加したときに得られたはずの助言を得ることができ、その対価として助成金から謝礼金として支払うことを計画している。
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Research Products
(2 results)