2020 Fiscal Year Research-status Report
The Legacies of Bloomsbury Group in Modern British Novels
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20K12975
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
岩崎 雅之 福岡大学, 人文学部, 講師 (00706640)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | モダニズム / メタモダニズム / E. M. Forster / Virginia Woolf / Zadie Smith / Ian McEwan |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は現代イギリス小説に見られるE. M. Forsterの作品の影響を考察すべく、ForsterのHowards End (1910) を下敷きとしたZadie SmithのOn Beauty (2005) をメタモダニズムの観点から分析した。Smithのメタモダニズム作品は、Forsterのモダニズム作品のプロットを基軸に据えてはいるが、ハイパーリアルな高度消費社会の人種やアカデミズムの問題を間大西洋的に描くことに主眼を置いており、その結末はオリジナルのHowards Endとは大きくかけ離れたものとなっている。Howards Endの結末では、都市と田園、および階級間の対立の解消が暗示されていたが、On Beautyにおいては新たな美の到来、および主人公たちの新たな自己認識の瞬間が暗示されている。この結末に至る物語の過程において、SmithはForsterの作品に登場する都市と田園を、現代の高度消費社会における一つの記号=イメージへと書き換え、歴史化している。Smith自身はForsterの作品の本質を「混沌」(muddle)にあると分析し、それはしばしば「動揺」(oscillation)という言葉によって形容されるメタモダニズムの特徴と合致するものであるのだが、彼女はこのような特殊な歴史的状況をモダニズム作品を導き手とすることで描き出したと言える。この分析結果は、日本ヴァージニア・ウルフ協会における『E. M. フォースター没後半世紀の遺産――ノスタルジア、ヘリテージ、クィア』というシンポジウムにおいて「「偉大さ」の系譜――Howards End とOn Beauty」と題して発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初から予定していた通り、モダニズムとメタモダニズムの関係を探るべく、ForsterとSmithのテクストの関係性をモダニズムおよびメタモダニズムの観点から精査することができた。その結果、On BeautyがHowards Endを一つのイメージへと変容し、現代の高度消費社会における記号体系の中に取り込み、歴史的文脈を与えようとしていることが明らかになった。言い換えるならば、SmithがForsterの作品を下敷きとして据えたのは、ハイパーリアルな世界における人種や国家の対立を歴史的観点から描出するためであり、その意味では、メタモダニズムはモダニズム作品の持つ時空間の拡大を図る文化現象であるとも考えることができる。この研究結果は、次年度以降の研究を進める上での非常に重要な指針となる。 また、2020年度は、このようなメタモダニズム作品の分析に加え、Virginia Woolfの執筆した伝記『フラッシュ――ある犬の伝記』の翻訳・出版を行なった。この翻訳を通じ、次年度において行う予定であったWoolfとメタモダニストとの関係の研究を、より広くヴィクトリア朝から現代に至るまでの視座に立って行う準備ができた。『フラッシュ』は、ヴィクトリア朝詩人Elizabeth Barrettの飼い犬を主人公とした小説ともメタ伝記ともつかぬ奇妙な作品であるが、この作品からは、Woolfの前時代文学に対する態度を読み取ることができ、この作品を今後の研究対象として含めることで、Woolfとメタモダニストによる過去と現在の対話を、より長期にわたる歴史的視点において精査することが可能となる。最終年度に至るまで、単にモダニズムとメタモダニズムの二項対立的関係だけに陥ることのない総合的な議論を行うことができるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、初年度のモダニズムとメタモダニズムの関係に関する研究を踏まえた上で、Woolfの作品とIan McEwanおよびMichael Cunninghamの作品を比較する予定である。McEwanのSaturday(2005)は、WoolfのMrs Dalloway(1925)を下敷きとし、そのプロットとナラティヴを踏襲した作品である。Saturdayの分析からは、現代においてモダニズム作品を復活させることの文学的意義が明らかになるだろう。同様の事例は、初年度において行なったOn Beautyにおいても見られた通りだが、Saturdayの場合、On Beautyとは異なり、モダニズムを代表する「意識の流れ」という手法を用いているため、Smithの場合とは異なるメタモダニズムの特徴が明らかになるものと思われる。 また、CunninghamのThe Hours (1998) も、Saturdayと同じように、限定的ではあるがMrs Dallowayを物語の基軸に据えている。ただし、The Hoursにおける最大の特徴は、Mrs Dallowayを執筆していた当時のWoolf本人が登場する点にある。このような特殊なモダニズムのリバイバルをメタモダニズムの観点から分析することで、現代社会におけるモダニズム作品の主題化の意義を問うことができる。McEwanにせよCunninghamにせよ、彼らのモダニズム作品の踏襲の仕方は、パロディをその最大の特徴とするポストモダニズムとは大きく異なっており、初年度の研究結果を含めて両者の作品を複眼的に論じることで、モダニズムからメタモダニズムに至るまでの新たな知見を示すことができるだろう。
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Causes of Carryover |
予算を執行していった結果、翌年度研究図書の購入に費消した方が効率的に研究を進められる少額が残ったため。翌年度の研究費と合わせてモダニズム関連の書籍を購入する予定である。
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